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第10話 受諾*

 (気持ち、いいのかな。だったら嬉しいな)  さっきしてもらったみたいに、今度は俺がやさしく唇で肌を食んでいく。  足立にじっと見下ろされているのが恥ずかしいけど、熱はどんどん帯びていった。  俺の腰に手が伸びてきて、履いていたズボンを下着ごとずり下げられ、それがふるっと飛び出てくる。  足立が好きでしかたないという証拠。  それを隠すように体を丸めるが、足首から素早く服を抜かれ、両手を捕らえられてしまった。 「見てもいい?」 「もう見てるじゃん……っ」  燃えるように熱くなった顔を歪ませながら、文句を言う。  正座するようにペタンと座り込んだ裸の俺は、力の強いこの人には勝てないと諦め、全てをさらけ出した。  足立はまた、視線だけで愛撫するみたいにそこに熱っぽい眼差しを送り続ける。  心構えする暇もないほど唐突に、それに手を添えられ、細長い指でやさしく握られた。 「あ、や……」  ぴくんっと身体が大きく跳ねる。  上下にこすられると、先走りの蜜がじわじわと滲んだ。  それを指の腹ですくって、出てきた箇所に塗り込むように円を描かれるとたまらなくて。  エッチに淡白な方でも自慰はしたことはあるし、感じる、というのはどういうものか知っていたはずだ。だけど自分の手と他人の手ではあまりにも違う。  頭が真っ白になるほどの快感は経験がなくて、どこまで気持ちよくなるのか、羞恥と少しの恐怖でいっぱいになり、思わずすすり泣いてしまった。 「やだっ……ぃや……っ」 「嫌なら、やめようか?」  ちょっと意地悪く笑う足立に、ふるふると首を横に振る。  本気のいやがり方ではないと、分かっているくせに。やめないで。もっとしてほしい。  うろたえる俺を見て、足立は満足気に口の端をあげて、手の動きを再開させる。   「あ──……」  ちゅくちゅくといやらしい音が大きくなっていき、漏れた液体が竿を伝って足立の指を汚していく。  自力で座っていられず、荒い息遣いをしながら恋人の身体に体重を預け、肩口に額を押し付けていた。  いやいやと首を振りながら、閃光のように弾ける瞬間を描いていたその時──  パチンッ! と尻を叩かれた俺は、顔をはね上げた。 「ひゃっ……」  いきなりのことでフリーズした。  時間が経ってから、叩かれた尻が少しジンジンとしてくる。 「……っ……ごめん」  足立は申し訳なさそうに前髪をかきあげて、深く頭を下げた。  何がごめんなんだろう。  感じすぎてグズグズに溶けている頭の隅で、必死に考えた。 「あ、虫がいた? だから叩いてくれたのかな」 「……そんな風に気遣わなくていいから」  足立は呆れて笑っていた。俺にというより、自分自身に。  再び抱き寄せられて、耳元で囁かれる。 「史緒があまりにも可愛くて、つい叩いちゃった……」 「え……」 「俺ずっと、史緒の白い肌と匂いが大好きで。お尻に赤い痕とか付けたら、史緒はどんな顔するんだろうって、ずっと考えたりしてて……」  ごめん、と俺の肩に顔を埋めながら懺悔する人は、羞恥と(なげ)かわしさでいっぱいな顔をしていた。  そういえばさっきも、首に痕を付けられた。  俺の体を大事にしたいのに、性癖がつい表に出てしまう、そのことを謝っているのか。   「痛い思いはさせたくないんだけど」  足立はもう1度謝った。  俺は艶々の黒髪に手を差し入れ、よしよしと頭を撫でる。  いつもは大人っぽいのに、今はまるで子供かペットみたいで笑ってしまう。 「別にいいよ。俺、足立に何されても嫌じゃないし、きらいにならないよ」  心からの本音を言うと、足立はゆっくりと顔をあげて、俺を見る。  いいよ、と目だけで訴えると、許されたことに安堵した足立は、俺にたくさんキスをした。  座ったままじゃつらいから、と、ゆっくりとベッドに横たわった。  そのまま四つん這いになるように言われ、大人しく従順する。  パチン、と遠慮がちに尻を叩かれた。  さっきよりも弱々しいので、いいよ、と言うともう1度、強めに叩かれた。  身体が勝手にぶるりと震えて、喉から変な声も漏れてしまう。  正直言って、そうされても嫌じゃなかった。  足立に支配されているのだと思うと、痛みは快感へと変わった。  何度か手のひらで叩かれる。  こういうの、スパンキングって言うんだっけ。  自分からは見えないが、白い肌は赤く染まっただろう。  情欲に濡れたその瞳が細まったのを見て、心から嬉しくなる。 「史緒のこと、大事にするって言ったのにね」  独り言のように呟いた足立は下を脱いでから、さっき買ってきたローションの蓋を取り、自分の手に液体を出した。  俺のお尻の狭間に丁寧に塗りつけられて、指先でそこを撫でられる。  最初はいりぐち付近でこしょこしょしていた指は、いつの間にかスルッと中へ沈みこんでいた。  苦しかったのは最初だけで。  (すごい……なんか)  うしろは初めてなのに、快感が弾けた。

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