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第14話 永遠【終】
「それ以上いちゃいちゃしてたら、すぐに追い出すからね」
「はいはい」
お花が散っている俺たちを見る康二さんの目が少し厳しくなるが、足立は適当にかわして手を離した。
ご飯をご馳走になって、凛くんリクエストのヒーローごっこや隠れんぼを全力で楽しむと、はしゃいで疲れたのか、夕方前に凛くんは眠ってしまった。
起こさぬように奥さんが凛くんを寝室へ連れて行く。
康二さんは玄関まで俺たちを見送りに来てくれたので、礼を言った。
「ありがとうございました。俺まで誘ってもらっちゃって」
「まぁ、その方が恭太郎が喜ぶと思ったからね。来年も、お祝いできたらいいね」
「はい。再来年もその次も、ずっとお祝いします」
ふと漏れた本音に反応した足立は、康二さんの目の前で俺の手を握る。
「俺も、史緒の誕生日、ずっとお祝いする。5月だよね?」
「うん」
「今からプレゼント考えておくから」
熱っぽい視線を浴びせられた俺は、顔を火照らせてしまう。
キスでもしそうな雰囲気に、眼鏡の男はげんなりしつつも穏やかな目を向けた。
「はい、2人の世界に入りたいんだったら、早く帰ってね」
強制的に家を追い出された俺たちはクスクスと笑って、康二さんのマンションを後にした。
穏やかで柔らかな風と陽射し。
歩きながら俺は、空を仰ぎ見た。
とても淡い青。
筆ですっと線を引いたような白い雲。
雷は随分と長い間、鳴っていない。
鳴ったとしても、足立はもう大丈夫だと思う。
「誕生日だから、俺の家へ行こうか」
またいつもの誘い方。
今日は無理なこじつけではなく、言葉そのままの意味で通じるので素直に頷いた。
「足立の家で、俺からもちゃんとお祝いしたい」
「恭太郎くんって、もう言ってくれないの?」
「え」
確か凛くんと話した時にそう言ってしまったが。
「初めて名前を呼ばれて、少しドキッとした。子供の頃も、直接名前を言われたことはなかったから」
「……じゃあ呼ぼうか」
「史緒が呼びづらくなかったら。部屋で、呼んでくれると嬉しいです。呼び捨てで」
部屋で、というのは。
意味は訊かなくても判るので、耳を触りながら「はい」と返事をした。
ふわりと揺れた黒髪からは柑橘系の爽やかな香りがしてきて、胸がドキドキとする。
この匂いを嗅ぐ度、ふたりだけの特別な時間を思い出す。
俺の心と体はもう、足立でできている。
恋をした。
この心を、全部さらけ出せるほどの。
コートの袖に隠しながら、俺は足立の細い指先をこっそり摘んだ。
「大好きだよ。恭太郎」
一緒にいることを望んでくれて、ありがとう。
今この瞬間、目蓋を伏せた足立が額に優しくキスをしてくれたことを、俺はこの先ずっと忘れないと思う。
Fin*
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