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第二章 告白 第1話

 突如暴力団組長の部屋に連れ込まれてから、一週間が経った週明け月曜。優真は、勤務先の区役所内にある社会福祉事務所で、パソコンに向かっていた。 あれ以来優真は、氷室の部屋での生活を強制されている。毎朝舎弟らに送られて職場へ出勤し、終業後も迎えに来てもらう生活だ。 (愛人、のつもりだろうか……)  少なくとも舎弟らは、完全にそう認識している様子だ。一体どうして自分なんかが、と首をかしげたくなる。氷室は、月城組の十五代目組長として跡目を継いだばかりで、まだ四十二歳の若さだそうだ。しかもあのルックスで料理も上手とくれば、女性などよりどりみどりではないのか。 (一度、アパートに帰りたいんだけど……)  長い間留守にしていると、さすがに気になる。だが氷室は、頑として許さないのである。出勤着やパソコンなど、必要な物は全て与えられた。ドタキャンしてしまった本物の『ヒロシ』についても、氷室の方で『おやじレンタル』に連絡を取り、処理してくれたそうだ。  ため息をつきながら時計を見ると、もう昼休みだった。昼食に出かけようと、優真は席を立った。すると、隣の年金のフロアに、見覚えのある老女を見つけた。 アパートの大家だった。手持ちぶさたな様子で、順番を待っている。優真は、近寄って挨拶した。あら、と彼女が目を見張る。 「立花さん、こちらにお勤めだったっけ。何だか、久しぶりにお見かけするね」 「すみません。ご連絡もせずに、長いこと留守にして」  後ろめたくなり、優真は謝った。だが大家は、なぜか首をかしげた。 「立花さん、何言ってんの? あたしに言う必要は無いでしょ。もうあたしは、大家じゃないんだから」 「ええ!? 大家さんて、替わったんですか?」  いつの間に、と優真は目をむいた。すると彼女は、鞄から名刺を取り出した。 「そうよ。アパートなら、この方に売却したの。連絡行ってない?」  その名刺を見たとたん、優真は絶叫しそうになった。

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