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第3話

『どうした?』 「どうした、じゃありません。僕のアパートを買い取ったって、どういうことですか。それに、山下さんを追い出したんですか!」  氷室の声が低くなる。 『誰が喋った』 「誰でもいいでしょう」  優真はとっさに元大家を庇おうとしたが、氷室はすぐ見抜いたようだった。 『前の大家か? 口の軽いばばあだな』 「ひどすぎます! あれほど頼んだのに、勝手なこと……。山下さん、静かにしてくれるって念書まで書いたじゃないですか」  精一杯非難したものの、氷室は平然としていた。 『確実に静かになるなら、それに越したことはねえじゃねえか。ちなみに、一階にも三階にも誰も入居させねえから、もう騒音問題は起こらねえぞ。安心してろ』  あくまでも、氷室に悪びれる気配はない。優真は、本格的に苛立ってきた。 「じゃあ、僕はもうアパートへ戻りますよ。いいですね?」 『ダメだ』  間髪入れず、氷室が答える。 『解決料代わりに体を差し出す約束、忘れたわけじゃないだろうな? 毎日アパートへ帰ってから俺んとこに出向くのは、時間のロスだろうが。とにかく当面は、つべこべ言わずにうちにいろ。わかったな』  電話は、一方的に切れたのだった。

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