28 / 70
第11話
「あんな山下みたいなクズ、それも自分を苦しめた人間を、お前は追い出すなと庇ったじゃないか。何てお人好しで可愛い奴だろうと思った。人違いしていたとはいえ、ヤクザの俺に正面から対抗してまで……。その度胸と優しさに、俺は惚れたんだよ」
あまりにもストレートな告白に、優真の顔はカッと熱くなった。氷室は、優真を軽く抱きしめてつぶやいた。
「でも、お前はまだ俺を好きじゃないだろう」
「――! それは……」
どう答えるべきか、優真は迷った。氷室の優しさと思いやりは、素直に嬉しい。だが彼を好きかと言われると、まだわからなかった。
「……ふ」
唐突に、笑い声が聞こえる。思わず顔を上げれば、氷室の機嫌は意外にも悪くなさそうだった。
「やっぱりお前は、正直な奴だな……。まあいい。いずれ俺を好きにさせてみせる」
「徹司さ……」
「ああそうだ、お前は俺に謝りたかったんだよな?」
氷室が、にやりと笑う。
「なら取りあえず、今夜はベッドでサービスしろ。わかったな」
言い返す隙も与えず、氷室はバスルームへと消える。だが優真は、そんな彼を、なぜか温かい思いで見送ったのだった。
ともだちにシェアしよう!