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第11話

「あんな山下みたいなクズ、それも自分を苦しめた人間を、お前は追い出すなと庇ったじゃないか。何てお人好しで可愛い奴だろうと思った。人違いしていたとはいえ、ヤクザの俺に正面から対抗してまで……。その度胸と優しさに、俺は惚れたんだよ」  あまりにもストレートな告白に、優真の顔はカッと熱くなった。氷室は、優真を軽く抱きしめてつぶやいた。 「でも、お前はまだ俺を好きじゃないだろう」 「――! それは……」  どう答えるべきか、優真は迷った。氷室の優しさと思いやりは、素直に嬉しい。だが彼を好きかと言われると、まだわからなかった。 「……ふ」  唐突に、笑い声が聞こえる。思わず顔を上げれば、氷室の機嫌は意外にも悪くなさそうだった。 「やっぱりお前は、正直な奴だな……。まあいい。いずれ俺を好きにさせてみせる」 「徹司さ……」 「ああそうだ、お前は俺に謝りたかったんだよな?」  氷室が、にやりと笑う。 「なら取りあえず、今夜はベッドでサービスしろ。わかったな」  言い返す隙も与えず、氷室はバスルームへと消える。だが優真は、そんな彼を、なぜか温かい思いで見送ったのだった。

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