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第2話

「……あれ、事務所に戻るんじゃ?」  そこで優真は、ふと気づいた。車は明らかに、いつもとは違う道を走っていたのだ。見ると向坂は、意味ありげに笑っている。 「どこへ行くんです?」 「それは着いてのお楽しみってことで」 「はあ……」  一体どこへ向かっているんだろう、と優真は不安になった。それに、氷室はどうして部屋に戻って来ないのか。先ほどの向坂の言葉を信じるならば、もう元気らしいのに。 (やっぱり、結婚話が進んでるから? それで僕を避けて……?)  向坂に聞いてみたいが、返事が怖かった。優真は、落ち着かない思いで車に揺られた。 「……さあ、着きましたよ、立花さん」  数十分後、ようやく向坂が言った。同乗していた舎弟が、さっとドアを開けてくれる。外に降り立った優真は、目を見張った。そこには、閑静な住宅街が広がっていたのだ。そして目の前には、シックな外観の高層マンションがそびえ立っている。 「行きましょう」  うながされ、マンションの中へと通される。セキュリティのしっかりした建物だった。わけがわからないまま、最上階への角部屋へと連れて来られる。その前では、黒服の男たちが最敬礼していた。彼らは、優真と向坂を見ると、さっと玄関を開けてくれた。 「あの、向坂さん、ここって……」 「社長。立花さんをお連れしました」  優真の質問には答えずに、向坂が奥へ声をかける。すると、懐かしい声が返って来た。 「通せ」 (徹司さん……!?) 「俺はこれで」  向坂はにこりと優真に微笑むと、一礼した。 「あっ、ちょっと……」  だが向坂は、あっという間に出て行った。仕方なく、優真は一人で部屋に上がった。室内もまた、落ち着いた内装だった。ドキドキしながら、廊下を進む。氷室はどうやら、一番奥の部屋にいるらしかった。思い切って、声をかけてみる。 「入れ」

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