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第六章 終焉と未来 第1話

「立花さん、お疲れさんです」  その日の仕事帰り、迎えに現れた車の中には、向坂の姿があった。何か変化があったのだろうか、と優真は身構えた。消費者金融での抗争事件から一週間以上経つが、氷室とはあれきり会っていないのだ。二人はあの後、もぐりの医者に診てもらい、事なきを得た。だが氷室の方は静養が必要とのことで、別宅で過ごしているのだ。優真は一人、氷室の部屋で暮らしている。 「あの、徹司さんに何か?」  優真はおびえたが、向坂はあっさり否定した。 「いえ、もうぴんしゃんなさってますよ。それ以外も全部片付いたんで、安心してください。あの店にいた客たちも、もうすっかり元気です」 「それはよかったです」  優真はほっとした。氷室は、抗争に巻き込まれて怪我をした客たちの治療費を、陰で全額負担したのだ。使われたのは手榴弾だったが、幸い、大事に至った者はいなかったそうだ。 「カチコミかけた連中も、今は皆反省してるらしいです。ったく、血の気の多い馬鹿な奴らですわ」  向坂は、顔をしかめた。城に扇動されて勝手な行動を取った彼らに、氷室は激怒し、全員破門(組から追放)にした。その後彼らは、そろって逮捕されたとのことである。 「でもって、東郷組の奴らもパクられました」 「……せっかく見逃してもらったのに?」 「間抜けにも、飛び(逃げ)損ねたらしいですよ。でもって、銃刀法違反で引っ張られて」  向坂は、小気味よさげに笑っている。優真は勇気を出して、一番気になっていたことを聞いてみた。 「……あの、城さんはどうなったんですか」  向坂が、一瞬沈黙する。 「徹底的にヤキ入れた後、絶縁しました」  短い言葉だったが、十分過ぎる衝撃だった。絶縁とは、任侠界から追放するという、破門よりもさらに重い制裁処分だ。 「……そんな」 「当然ですぜ」  向坂が、吐き捨てるように言う。 「親分のイロをハジいた(銃撃した)だけじゃなく、ミスとはいえ親分を撃ったんだ。俺としては、まだ足りねえくらいですよ」 (そりゃ、そうだろうけど……)

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