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第5話

「どうだ、気に入ったか?」  氷室が微笑む。これまで見た中で、一番優しい笑みだった。 「はい……とても」  胸がいっぱいになって、上手く喋れない。それでも優真は、必死に言葉をつむいだ。 「徹司さん……。本当に、ごめんなさい。こんなに僕のことを想ってくれてたのに、僕、ひどいことを言ってしまって……。別れたいなんて、思ってませんでした。あなたが、好きなんです。でも、女性と結婚するなら、それも連合を組むためなら、身を引かなくちゃって……」 「ああ、わかってる」  氷室が、そっと優真の頭を撫でる。そして彼は和服の懐から、何かを取り出した。優真は、あっと思った。それは、『ランコントル』でもらったドリップコーヒーだったのだ。 「マサから全部聞いた。『ランコントル』に行ったのは、俺のためだろう? ひどい邪推をして悪かった」  はい、と優真は頷いた。 「飲ませてあげたかったんです。でも……」 「優真」  氷室が、優真の言葉をさえぎる。次の瞬間、優真は息をのんだ。氷室は座布団の上に正座すると、優真に向かって深々と頭を下げたのだ。 「お前には、本当に悪いことをした。謝っても謝りきれない」 「徹司さ……」 「あの日の狙撃は、城の仕業だ。あいつは東郷組と通じて、お前を狙った。当然俺は、報告を受けていなかった。ただお前が嘘をついて外出し、『ランコントル』へ出向いたとだけ聞かされていた」

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