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EX side:佐伯
俺は何度目の引っ越しになるのか、もう数えるのをやめていた。
車を降りると、引っ越して来た俺の家を眺めている子供が居た。
振り返った子供は俺に気付くと、俺へじっと視線を合わせる。
すぐにほわっとした笑顔を浮かべた。
「ここのうちの人?」
「ああ、今日引っ越して来た。」
人懐っこそうな笑顔に、警戒が無くなる。
「お隣さん宜しくね。僕柚希。」
「おっ、お前…男なのか!?」
「うん、柚希は男の子だよ。」
不思議そうに首を傾げる柚希。
「あ、俺は佐伯克成。十二歳だ。」
「さえきかつ…克兄ちゃんでいい?」
下の兄弟が欲しかった俺はちょっと嬉しかった。
「じゃあ、ゆずって呼んでいいか?」
「うん。」
頷く笑顔が可愛かった。
ゆずでさえこんなに可愛いんだから、ゆずのお姉さんとか居たら美人なんじゃ?と思った俺は、早速聞いてみる事にした。
「ゆずはお姉さんとか居るのか?」
「うん、居るよ。呼んで来るね。」
俺の邪な心に気付かず、姉を呼びに行ってくれた。
戻ったゆずが連れて居たのは、予想以上に美人だった。
高校生くらいか、胸がでっかい。
視線をついそこにやってしまう。
「何よエロガキ。」
視線に気付かれてしまって、慌てて目を逸らす。
「お姉ちゃん、お隣の人だよ。」
ゆずが紹介してくれて、俺を睨んでたものから表情が和らぐ。
「ああ、引っ越し今日だったのね。あたしは芹澤美月、十六歳。こっちは弟の芹澤柚希、六歳。」
「俺は佐伯克成、十二歳。」
名乗ると美月は俺を繁々見て、何か納得したような顔をする。
「…攻めね。」
何かぼそりと言ったけど、意味はわからなかった。
この家に来て一週間。
俺は毎日のように芹澤家で遊んだ。
ゆずは六歳にしては頭の回転が早く、俺と遊ぶのに全く支障は無かった。
手が掛からない弟って楽だと聞いてたけど、そんな感じだった。
主にゆずと遊んでたけど、傍には学校から帰った美月が大体居た。
この家で大人の姿は一度も見なかったけど、そういう事情がある家を他にも知ってたから、特に聞かなかった。
ゆずと遊んでると、学校から帰って来た美月が俺達にジュースやお菓子を用意してくれる。
こんな日が続くといいな。
でもやっぱりその時間に終わりが訪れてしまった。
父親が再び転勤になってしまった。
いつもなら諦めてたけど、今回は二人から離れたく無かった。
必死に俺は引っ越したくない事を訴えたけど、十二歳の俺にはどうする事も出来なかった。
せめて縁を繋いでおきたい。
そう思った俺は、美月に告白しようと思った。
ゆずに似てる美月の事が、きっと俺は好きなんだと思ったから。
善は急げと翌日、学校から帰って来た俺は、美月の元にすぐ駆け寄る。
俺は学校でかなりモテてたから、美月だってOKしてくれると自信満々だった。
「克成の気持ちは嬉しいけど、あたしの好きなタイプと違うのよね。」
その後攻めだのよくわからない事を言われたけど、振られたショックで意味を理解しようという頭が働かなかった。
すぐに走って、芹澤家の庭の隅でしゃがむと号泣してしまった。
振られた事もそうだけど、二人との接点が持てなくなってしまった事が辛くて。
振られた理由もわからない。
何より、ゆずともう遊べなくなってしまう事が辛い。
その時、ふわりと頭が抱き締められる。
「僕もね、いっぱい泣いてると、お姉ちゃんがこうしてくれるんだよ。『男の子は泣くの恥ずかしくなるだろうから、あたしが隠してあげるよ』って言って。」
ゆずが小さい手で撫でてくれるのが気持ちいい。
自分と半分の歳の子にされてるのに、恥ずかしさを感じるよりも落ち着いていく。
「ゆずが女の子だったら良かったのに。」
今は小さいゆずだけど、女の子だったら将来お嫁さんになって欲しいと思った事もある。
「ごめんね、男の子で。」
自分のせいで泣いてると思ったのか、ゆずが泣きそうな顔になる。
「ううん、ゆずのせいじゃ無い。俺、一週間後に引っ越すんだ。」
驚くゆず。
「遊びに来てくれる?」
「海外だから無理なんだ。」
それを聞いたゆずはぽろぽろと泣き出してしまった。
言った俺も泣いてしまう。
二人で泣き疲れてしまい、ゆずと俺は芝生の上でいつしか熟睡していた。
次の日俺は、原因不明の高熱が出た。
家はもう引き払う事が決まってたから、俺の体調が回復するまでホテルで生活してたらしい。
俺は熱が下がった時に、倒れる前の…厳密には『芹澤家』の事を忘れてしまっていた。
中学に上がり俺は益々モテていた。
だけど…どんな美人だろうと付き合う気になれなかった。
『ごめんね、男の子で。』
誰に言われたんだっけ、男相手で何が悪い?
今ならそう言えた。
自然に、俺はいつしか恋愛対象は男だけになっていた。
あの言葉が忘れられなくて。
『…が女の子だったら良かったのに』
いつ言ったのか、俺はこの言葉に後悔していた。
夢の中の美少女が俺に微笑む。
よく見るとその子は少年だった。
手を伸ばしても触れられない。
俺が可能性を絶ってしまったから…。
『克兄ちゃん』
そう俺を呼んで、俺の頭を撫でてくれた。
目を覚ますと忘れてしまう夢。
悲しくて涙が溢れた。
あんな風に再会する事になったのは、全ては俺が弱かったからだ。
だから今度こそ……。
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