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EX side:川上
俺はハッキリ言ってモテる。
自分でも自覚があったから、部活もモテを狙ったサッカー部に入った。
運動神経も良かったから、当然ポジションはFW。
小学生の時だって、足が速くてモテまくり。
この時の俺は勝ち組人生で楽勝!とか思っていた。
そんな俺だけど実は趣味はインドア。
アニメ・ゲーム大好きなヲタだった。
小六の時クラスの女子が『アニメとかゲーム未だにやってる奴キモー!』って言っていたのが聞こえて、学校では絶対に言わないようにしてきた。
そんな俺に転機が訪れた。
ある日の部活中、外れた方にボールが飛んで追い掛けて行くと、人気があんまり無い方に転がってしまったので、大分走る事になり、漸く人の姿があって足を止める事が出来た。
「はい、どうぞ。」
ボールを渡してくれたその子に見惚れてしまった…。
あれ、でも、えっ?
美少女だと思ったその子は、間違いなく学ランを着ていた。
「えーっと…応援団だったりする?」
ボールを受け取るのも忘れて訊いてしまう。
「えっ?いえ、文芸部ですけど。」
そういう事を訊いたのでは無かったけれど、この子文芸部なんだーと情報を密かに入れておいた。
どうやらこの子は正真正銘男みたいだ。
「あの、これ…。」
忘れていたボールを受け取って、仕切り直す。
「有難う、大切なボールを拾ってくれたお礼に食事を奢らせてくれないかな?」
単なる汚いボールだけど、食事に誘う口実だ。
「そんなに凄いボールなんですか?でも、これくらいの事で奢ってもらうわけにはいかないので。」
その子は頭を下げると、走り去ってしまった。
初めて振られた?
違う、まだ始まっていない。
奢りを断られただけだから。
俺はその日にサッカー部を退部した。
その足で文芸部に入部届けを出した。
翌日の放課後。
文芸部部室に入ると、部員人数が少いのか、五人しか居なかった。
部長らしき男がザッと説明してくれた。
昨日の子に笑顔で手を振ると、驚いたような顔で会釈してくれる。
部活はそれぞれ好きな事をして過ごしていて、本を読む、ゲームをするとか、本来の文芸に余り関係無い事を殆どの人間がしていた。
昨日の子――『芹澤柚希』と、漸く名前が知れた――は、本を読んでいた。
そこへ近寄る。
「芹澤。」
呼び掛けると顔を上げてくれた。
俺へ視線を向けてくれる。
「えと、川上先輩でいいですか?」
「OK。芹澤はゲームとかする?あ、柚希って呼んでいいかな?」
「はい、柚希でいいです。ゲームはしないです。」
素っ気なく聞こえるけど、視線はしっかり俺に合わせてくれている。
綺麗な顔だなぁ…ドキドキする。
「本に飽きたらゲーム見てみない?」
小学生の頃のトラウマがあったけど、柚希とは俺の本当の趣味で一緒に楽しみたいと思ったから。
「本はいつでもいいので、すぐ見れます。」
「そうか!」
返事にウキウキするのを抑えられないで、喰い気味になる。
柚希の手を掴んでモニターの前に行くとPCを起動。
上海をプレイする。
「柚希、これ知ってる?」
「初めて見ます。」
簡単だからザッと教えて、柚希にやらせてみる。
「えーっと…。」
初めてのプレイなのに柚希は結構健闘した。
再プレイを二度すると、コツを掴んだようでクリアに成功した。
「初めてなのに凄いね、柚希!」
「あ、有難うございます。」
俺が褒めると、柚希は頬を染めて照れ笑いする。
笑顔が物凄く可愛い。
俺は毎日色々なゲームを柚希に教えたり、プレイを見せたり、アニメなんかも教えて、一緒にカラオケに行ったりするようになった。
その流れでご飯に行ったりもした。
最初の目的を自然に達成していた。
「柚希、面白いゲームを見せたいから、うちに来ない?」
最初は意識せず普通に誘った。
自分の趣味を理解してくれる柚希と一緒に居るのが楽しくて、どんどん楽しい事を教えてあげたかった。
柚希は笑顔でOKしてくれた。
日曜日。
部屋に来た柚希にVRゲームを教える。
「凄い!本当に動けてるみたいですね!」
初めての感覚を楽しむ柚希。
思った以上の反応に、薦めた俺は気を良くする。
2Pで一緒に遊びながらふと柚希を見る。
こんなに気が合うし、もしかしたら…友達以上になれるんじゃないだろうか?
俺は自他共に認めるぐらいイケメンだと思っている。
部屋で二人っきりになってくれているから、OKなのでは?
可愛い柚希を前にすると、同性だとかは全然考えなかった。
でも、もし拒絶されたら、この関係が終わってしまう。
そう考えた俺は、柚希に告白するタイミングをズルズルと延ばしてしまっていた。
気が付けばもう卒業式。
卒業しても会えるだろうけれど、間違い無く今より会える時間は減る。
それに柚希が他の奴に目を付けられる可能性だってある。
現に今だって俺が睨みを利かせているから寄って来るのを諦めた奴を知っている。
そして、卒業式の後に柚希を呼び出した。
「川上先輩、卒業おめでとうございます。」
柚希は笑顔でそう言ってくれた。
「有難う。柚希と会う時間が減ってしまうから、俺は辛いよ。」
「はい、僕もです。川上先輩にはたくさん遊びを教えてもらって…遊んでもらって、楽しかったです。」
「俺も、柚希が俺の趣味に楽しそうに付き合ってくれたお陰で、自分を偽って時間を過ごさずに済んだよ。有難う、柚希。」
「そう思って貰えて良かったです。」
これで二人の遊びの時間が減ると言う事を柚希も感じてか、目が少し潤んでいる。
ああ、やっぱり俺達は同じ気持ちなんだ。
確信した俺は勝負に出た。
「柚希、俺は柚希の事が好きなんだ。」
「はい、僕も川上先輩の事、好きです。」
「ほんとにっ、柚希!?」
拍子抜けする程あっさりとした答えに動揺してしまったけど、両想いだったんだ。
嬉しくて柚希に手を伸ばし顔を近付ける。
「あっ、えっ、あれ!?」
キス目前で動揺声を上げる柚希が、俺の胸を押す。
「あ、あの、御免なさい。僕の好きはそういうのじゃなく…川上先輩は、一緒に居て楽しい友達で、色々教えてくれる尊敬する先輩に対する好意です。」
え?柚希が言ってる意味がよくわからない。
「誤解させてしまってたら御免なさい。」
済まなさそうな顔をした柚希は、頭を下げると立ち去ってしまった。
え?デートしたよね?
部屋に二人っきりになってくれたよね?
呼び止めて冗談だったとでも言えば、今まで通りの関係を続けられるかもしれない。
でも俺にそれは無理だ。
本当に振られた事を消化出来ずに立ち尽くした。
その後高校に進んだ俺は授業に身が入らず、成績も酷い、友達も出来ないで、一ヶ月しないで退学した。
部屋に閉じ籠ってダラダラとゲームをする毎日。
何ヵ月経っても柚希が忘れられない。
告白さえしなければ、今も柚希は横に居てくれたかも知れない。
それで、もう少し時間が経てば、柚希も俺を好きになってくれたのでは?
いや、きっと告白しなくても、この部屋で柚希を無理矢理……。
いっそそうすれば、柚希の感情も変わっていたのでは?とか未だに期待してしまう。
もうすぐ柚希と離れて一年になる。
それなのに俺の柚希への想いは全く変わらなかった。
MMOプレイ中に、ハッキング自慢するフレとチャットしていた。
「すっげーセキュリティ頑丈なゲームがあってさ、そこに漸く入り込めた件!」
「へー、KWSK。」
「まあ、俺の腕が上がったのか、スタッフが変わったのかは定かじゃないのだが。まだ入り込んだばっかだからそれ程KWSKな情報は無い。」
「何てゲーム?」
「ロイヤル・ラブ・オンラインって言ったかな。BLだから腐女子狙えるっしょ!」
女漁りをする気は無いから、俺には関係無いかな。
「ちょっと気になったのが、一人だけレベルカンストしてるプレイヤーデータがあったのが。GMかとおもたんだが、違ってさ。」
こんなキャラ、とそいつがスクショを見せてくれた。
「ゆ…柚希!?」
髪の色とかは違うけど、間違いなく柚希だった。
そう言えば、柚希のお姉さんがゲーム会社勤務って聞いたことがあった。
久し振りに見る柚希の姿。
ああ、俺はやっぱり柚希が好きだ。
「これ、どこのゲーム?」
「フルダイブ機だから、プレイはほぼ無理ぽ。」
フルダイブ機は高価だから俺達は当然買えない。
プレイするなら設置店舗に行くしか無いけど、予約が埋まっていていつになるかわからない状態だ。
待てよ…フルダイブと言うことは、柚希の精神を捕らえられるかも知れない。
俺はすぐにそいつに、今プレイしてるこのゲームとそのゲームを繋いで、柚希を捕らえたい、金は幾らでも出すと頼み、色々追求されないようにすぐに奴に五万円のウェブマネーのコードをチャットに打ち込む。
確実に金になると理解したそいつはすぐに協力してくれると同意した。
あの日後悔した事を、今からでも遅くはない、今度こそ柚希を…。
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