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「強がり」

  「ルカの、そういうとこ、嫌い」 「はー?? そういうとこってなんだよ?」  不機嫌に聞き返される。 「オレ、ルカとしばらく離れる。 安らかに温泉入りたいしっ」 「――――……」  ルカがムッとして、黙ってる。 「は、嫌われてやんの」  ゴウが可笑しそうに笑って、ルカをからかってる。  その横で、苦笑いを浮かべていたキースの隣に、オレは隠れた。 「オレ、キースと行ってもいい?」 「あー……うん。そうだね……」  ちら、とルカを見て。  ふざけんな的な顔をしているルカに、キースは更なる苦笑いを浮かべながら。 「……まぁ、いっか。じゃあ服買ってあげるよ。ソラは、どれがいい?」 「これ」  青空みたいな色の服。ちゃんと上まであるやつを選んだ。  だって、キスマークは見られたくない。 「ルカ、ちゃんとソラは預かるから。嫌いって言われた意味、ちょっと考えときなよ?」  そう言ってくれたキースの言葉に、そうだそうだ、うんうん、と頷きながらルカから隠れた。  そしたら、なんだかすっごくむっとした顔をしていたけど。オレには何も言わず、ルカは服を選ぶとゴウと行ってしまった。  行ってしまったというか。行ってくれたと言うか。  ……別に良いんだけど。  そもそもオレはもうキースと歩き出そうとしてたし。  無理やり引きずり寄せられなくて、良かった。て感じ。  たまには離れるのもありだよね。 「ルカ達は向こうに行ったから、あっちの着替えるとこ行こうか」  キースの言葉にうん、と頷く。  キースは、オレを見て、クスクス笑い出した。 「良いの? ルカの近くに居なくて」 「良い。 ……この世界来てから、ずーっとルカの隣だから」 「まあ、そうだね ――――……まあ落ち着くまで、いっか」  ふ、と笑う。 「でもオレは、ルカが誰かにこんなに執着するとは、思わなかったよ」 「――――……」 「ソラには、迷惑?」  くす、と笑われて、オレは黙った。  迷惑……っていうのとは、違う気がする。  ルかはいっつも、オレを気にして、あれこれ世話して、優しく、して。守ってくれてる気がするから。  ううん、と首を振ると、キースはふ、と優しく笑った。 「じゃあ少し落ち着くまで、オレと話して、温泉につかってようか」 「うん。……ありがと」  キースと一緒に着替えて、温泉の入り口を通る。  あちこちに幾つもの温泉があって、結構人が居る。  観光地みたいな感じのとこなのかなあ。なんて思いながらあたりを見回していたら、キースがオレを見下ろした。 「飲み物買って行こ、ソラ」 「うん」  キースの後について、お茶を買ってもらった。  あーなんか。キースと居ると、優しくて、穏やかでいーなあ。  なんて思いながら、あとにくっついていって、空いてる温泉に2人で沈んだ。 「あったかー。幸せー……」 「うん。ほんとはお酒も売ってるんだけど……ソラ酔わせると、ルカに怒られそうだからなあ」  クスクス笑うキース。 「……キースって、いつからルカと居るの?」 「結構前からルカと旅してたよ。色んなとこ行ったし、色々戦ってきたし」 「――――……ルカの事好き?」 「はは。どんな意味で?」 「……どんな意味でもいいけど」 「んー。王子として、まず好きだよ。年下だけど尊敬してる。――――……あとは、酒飲み友達としても。一緒に旅する仲間としても。好きだし」 「――――……」 「たまに年下として、可愛い時もあって、そういうとこも好きかな」  ふ、と笑いながらキースが言う。 「好きなとこ、いっぱいあるんだね」  そう言うと、キースは、そうだね、と微笑んだ。 「じゃあソラは? ルカの事好き?」 「すっごくからかわれる気がするから……好きって言いたくない気持ちがあるけど……」 「ん」 「……安心するかなあ。側に来てくれると」  そう言うと、キースはふ、と微笑んだ。 「まあね。あの存在は、安心するよね。分かる」 「キースも安心する?」 「ん。戦う時も、ルカが居る時と居ない時じゃ、全然違う気がする。別にオレ達だけで勝てる時でも、居てくれると、なんかどーにかなりそうな?」  そっか。  ……皆、安心するのか。  じゃあオレの安心するっていうのも……同じ、なのかな。 「あ、ソラとキース発見」  リアが楽しそうに笑いながら現れて、オレの隣に入った。 「あれ、ルカ達は?」  そう聞いたリアに、キースが苦笑いを浮かべる。 「今、ルカがソラを怒らせて。別行動中なんだよ」 「あれ。よく離れたね、ルカ」 「オレが預かるって言ったからかな」 「ふうん。――――……寂しくなってない? ソラ?」  リアが、これまた楽しそうに、クスクス笑いながら、オレを覗いてくる。 「……寂しくなんかないよ」  少しの強がりと共に言うと、2人は顔を見合わせてクスクス笑う。    ――――……少しの強がり、なんて思う位には。  既にちょっとだけ、隣に居ない事に、違和感はあるけど。  なんか認めるのは、少し癪……。

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