114 / 286

「酔っ払い2人」

  「ユウって、この町の子?」 「そうですよ、お客様が来てるからお酒注ぎにって呼ばれました」 「そうなんだ。大変だね」 「え、全然。飲んでも食べても良いし、気に入った人の所にも行けるし」 「ああ、そうなんだね」  なるほど、こういう所も出逢いの場なんだな。   ゴウとかも言ってたもんね。  ほんとやっぱり、皆、そういう欲に忠実っていうか。  しかもそれをおっきな声で言えちゃうっていうのがなあ。  こんな可愛い女の子までそうとなると、やっぱりオレにはカルチャーショックかも……。  なんて思いながら、苦いお酒を口に入れる。  んー、これなら酔わない。何て言っても、たくさんは飲めないから。  唇についたままの酒すらもちょっと苦い。  飲めば飲む程苦い気がする。  うえ、と、少しだけ眉を顰めていると。 「ソラさんて、今夜はどこに泊るんですか?」 「ん? ああ、この町の宿に泊まるよ」 「それって、1人部屋ですか?」 「……あー……ううん、2人」 「そうですか……じゃあソラさん」 「ん?」 「……私の家に来ません?」 「ユウの家?」  ん? どういう意味?  思わずじっと見つめあってしまう。 「あ、いえ。あの――――……無理なら……」  ユウの態度にようやくそういう意味だったのかと気づいて、あ、ごめん、鈍くて、と謝る。 「でもごめんね。オレがそういう事するとすごく怒る人が居て……」 「……ソラさんの好きな人ですか?」 「うーん……うん。まあ。……好き、かな」  ルカ聞いてないし。まあいいか。そう言っても。  ……まあ。好き。ではある。  ……いや待って。好き? って。  …………人に向けて口に出しちゃうと、なんか、とんでもない気がするけど。  でもルカだけじゃなくて、リアもゴウもキースも、何ならアランも、皆それぞれ好きだしな。うん。   「こーら、ソラ!!」  でっかい、ルカの声がすぐ背後で聞こえた。  うわ! ……き、聞かれてないよね? 今の。  振り返って、内心びくつきながら、ルカを見上げる。 「あ? 何そんなびくついてンだ、何かやましい事でも……」 「ご、誤解だってば……」  返事をしかけて、ふと気づく。 「あれ? 珍しい。 ルカ、ちょっと酔ってる?」 「酔ってねーし!」  そうかなあ? 必要以上に声でかいし、なんか少し口調が……呂律が……。 「な、んか、重い……ってば」  思い切り寄りかかられて、引きはがしにかかって、すったもんだしていると、ユウが立ち上がった。 「ソラさん、私行きますね」  ミウをありがとうございましたと言って、ユウが、離れて行く。  その後ろ姿を見ながら。 「……フラれたのか?」  なんて、言うルカ。  いやいやいや。  振られてないし。  ていうか、オレが断ったんだし。  ていうか、今の状況でもし振られたのなら、それは、どう考えても、このでっかい酔っ払いが、オレにまとわりついてるからだ。 「もう離れてよっ 重いし!」  ルカを離れさせた瞬間。 「ソーーラーーー!」  こっちのデカい声は、今度はアランだ。  むぎゅ、と抱き締められてしまった。  こっちこそ、完全に、酔っ払い、な気がする。  抱き付かれたというよりは、もたれかかって潰されかけてるの方が正しいかも。 「ちょ、重……」  言った瞬間、チッと舌打ちが聞こえて、ルカが、アランをオレから引きはがした。 「触んじゃねえよ」 「――――……何で? ソラは、ルカのじゃねえだろ?」  クスクス笑いながら、アランがオレに聞いてくる。 「なんかソラに構うとさー、ルカの反応がすっっっげえ面白くて、ついつい、なあ?」  ついついじゃないから!  「ソラ、今日はお前、飲みすぎんなよ?」  ルカがオレの頬に触れて、顔を見つめながら、そんな風に言う。  …………オレは今のルカにだけは、そんな言葉言われたくないけど。 「ルカこそ、もうやめといたら? なんかいつもと違うよ」 「全然平気だっつーの」  ……だから。  なんか呂律が回ってないってば。  なんかでっかい酔っ払い2人。   飲み比べなんかするから悪いんだと思うけど。  なんか笑ってしまう。

ともだちにシェアしよう!