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「出会えたことに」

「おう、ルカ、ソラ」  ジェイが振り返る。 「おはよー」  挨拶をすると、ジェイは、オレとルカを見て、苦笑いを浮かべた。 「ルカ全然酔わなかったんだろ、あの酒。すげーな……」 「ああ。別に」  とか言ってるルカを見て、目が点。  ……すっげー酔ってましたけど、この人!!  キスしてくる手や、触ってくる手が熱すぎて、溶けそうだったし!!  めっちゃくちゃ甘々のデレデレ感が半端なくて……っっ!!  死にそうに恥ずかしい目に遭ったっていうか!! 「――――……っ」  ……っ言え、ない。  く、っそーー!  確かに泥酔とか、ぐでんぐでんとか、そういう意味での酔っ払いでは無かったけど!!  ものすごい、酔ってたぞー!! 「……何ソラ、すげえ面白い顔してんの?」  気づいたジェイが、そんな風に聞いてくる。 「だって…… 酔ってた、し……」 「ん? 酔ってたの? ルカ」  オレの歯切れの悪い言葉に、ジェイが首を傾げながらルカを見ると。 「んー? ……まあ。多少な? でも全然平気」    ルカがそう言う。  ………つか、あれは、オレが平気じゃなかったっていうか……っっ。  むむむむー、と言いたくても言えずにいると、ジェイがまた。 「昨日、ソラ抱けた?」  とか、言い放った……。  …………マジ、意味、わかんない。 「当たり前だろ」 「じゃあ酔ってねーんじゃねえの? 酔うと出来なくなんねえ?」 「ソラとすんのに、出来ねーとかなんねー気がするけど」 「――――……っっっっ」  で、りか、しー。  この世界に来てから、オレ、ものすごい、この言葉を叫んでる気がする。  心の中で。  何なら、日本ではそんなもの、そんなに求めてなかったのに。  まさか、ゲームの世界で、そんなものを、こんなにも求める事になるなんて思わなかった……。  ほんと、皆揃って、あっけらかんとしてて。  ……恥ずかしいことじゃないのかなあっていう、気がして……………。    いや。そんな気、してはこないな、うん。  もしこの世界の全ての人が、これが全然平気で会話してようと、オレが平気で、ルカに抱かれた話を全部わあわあ語れる日なんか、絶対来ない。  ……よね? どうしよう、その内毒されていったら。超嫌だ……。  悩んでると、ルカと話していたジェイが笑った。   「とりあえずクッキーの間はソラを預かればいい訳ね」  オレが悶々としている間に、今日の話に変わっていた。  ジェイの言葉に顔を上げると。 「目ぇ離すなよ」  ルカの言葉に、ジェイは不思議そうな顔をして、ぷ、と笑った。 「何? 目ぇ離したら ソラ、逃げんの?」  クスクス笑いながらジェイがオレを見るので、プルプルと首を振っていると。 「まあ……誰かに狙われてるかもしれなくてな」 「へえ? そんな兆候があるってこと?」 「そんなとこ、かな」  ルカの言葉に、少し視線を落とす。  ……オレをここに連れてきたのが、誰かなのか。何か、なのか。  ――――……まあ、全然分からないけど。  まあ間違ってはない、のかな……。 「ふーん……分かった、目ぇ離さないようにする。けどそんな心配なら、クッキー焼けるまでここに居たら?」 「――――……そうなんだけどなー。少しは離れる練習もしようと思ってな」 「ふーん?」 「居る時間が増えるほど、目に見えるとこだけに居させるとか、無理になると思うし。……まあ、誰かがソラ見てくれてる間に短い間から、練習しとく」 「そう、なんだ。ふーん……」  ジェイがオレを見て、クスクス笑う。 「じゃあ終わったら、ソラを船の所に届けるから。オレのかわりに、アランにこき使われてきてよ」  そんな言葉に、ルカは苦笑いしながら。 「分かった、行ってくる。じゃあな、ソラ。ミウもここに居ろよ」  最後に、ミウにも言って、ルカはオレの頭をぐりぐり撫でてドアに近付いて。  ふと振り返った。 「あ、ジェイ、金とかいくらかかってもいいから」 「はは。 りょうかーい」 「ソラ、持ってこいよ、焼いたの。あー、城行くかもだし、余ったら全部持ってこい」 「うん」  笑顔で返すと、ルカは、ふ、と笑んで。ドアを開けて出て行った。  ぱたん、と、ドアが閉まる。  昨日ルカが酔っぱらってる時、少しだけ離れたりもしたけど。  こんな風に、出て行く姿を見送る事って、ここに来てからほとんど、なくて。  ――――……少し、不安な。心細いような気がするのと。  何だか、 少し切ない、ような。 「ルカって、お前の事、ほんと大事な?」  クスクス笑うジェイに、うん、て言うのも可笑しい気がして、  少し首を傾げて見せた。 「さて。作り始めるか。あ、また実、取ってくる? 先に取りに行く?」 「うん、欲しい。 甘酸っぱい実とかはある?」 「色々種類あるけど。入れんの?」 「食べてみてからかなあ」 「オッケイ、味見るなら一緒に取りに行こう」 「うん! ミウもおいでー」 「みゃ」  あ、返事した。  ふふ。可愛い。  ジェイとミウと一緒に店を出て、実がなってる場所に向かって、歩き始めた。    ルカが、居ない。  ――――……もしこの世界に来た時に、ルカに会わなかったら。  ずっとこんな不安な気持ち、だったのかなあ。  ルカと居ると。  なんかあんまりな事が色々合って、  全部、いっぱいいっぱいだったけど――――……。  不安とか。  ……感じずに、居られたなあ……。  感じても、すぐに不安を潰してくれるというか。  何だか。ふっと。  ――――……密かに、ルカと会えたことに、感謝してしまった。

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