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「自然にキス」
ルカとミウの珍しい抱っこ状態は、その後すぐ解かれてしまった。
もうちょっと見てたかったのにと思ってしまい、そんな風に思った事が、ちょっと笑える。
ミウはプカプカ浮いて、離れたルカは、割れた皿を片付けているオレとジェイに近付いてきた。
「ソラ、手、切るなよ」
「うん、大丈夫」
「ルカ、オレにも言ったら?」
ルカとオレの会話に、ジェイが入ってきて、苦笑いしてる。
「何を?」
「……手ぇ切るなよとか言うやつ。心配しろよ」
「あ? ああ、ジェイは言わなくても切らなそうだから言ってねーだけ」
そう言われて、ちょっと面白くない。
「オレもこんなので手、切らないよ」
ルカは、ん?とオレを見て。んー、と考えて。
「切りそうだから、気をつけろっつってんの」
「………」
笑いながら言われて、軽く頭を撫でられ。
なんか小馬鹿にされてる気がして、むー、とむくれながら、片付けを終えていると。
ジェイがぷ、と笑って、ルカとオレを見た。
「ルカの愛情表現って――――……ガキんちょみてえだな」
「は?」
一瞬にして。ものすごく不愉快そうなルカ。
「だってすげえ可愛がってんのかと思ったら、わざとソラがむくれるような事言って遊んだりさ。 好きな子いじめて楽しん――――……」
そこまで言ったジェイは、ルカに、がつ、と肩を組まれた。
そのまま、オレに背を向けた。
「何、お前。オレが、なんだって……?」
不穏な空気に、「あー……」と、2人の後ろ姿を見ていたけれど。
……ま、いっか。とスルーする事にした。
危ない所には近づかないに越した事はない。うんうん。
「ね、ミウ?」
オレの側に浮いてるミウと顔を見合わせて、笑ってしまう。
割れたものを紙袋に入れて、封をして、テーブルの上に置いた。
それから、焼き窯を見に行って。
あ、いい感じかも。
くる、と振り返ると、何だか部屋の端ッこの方に行ってる2人が、まだ何か話してるけど。
「ジェイ―、もう良さそうだから、出してー?」
そう呼びかけると、ジェイが「おう」と、助かった、みたいな顔で振り返った。
「まずいこと指摘した、オレ」
こそ、と囁きながら、ジェイは笑う。
まあ確かに、ガキんちょなんて言われたら、ルカは、怒るよね……。
「だって、なんか愛情表現がさあ、素直じゃないっつーか。分かりにくいだろ? あれ」
「うーん……」
分かりにくいのかな。
ヤキモチやいてんのかなとかは、すごく分かるし。
……あと、酔ってる時に素直すぎるのは嫌というほど、分かったけど。
ジェイが焼き窯を開いてくれたら、中から甘い香りが一気に広がった。
テーブルの上に焼きあがったお菓子が並ぶ。
「ルカルカ、見て見て」
「ん」
「色んな形作ったんだよ」
「ああ。これ面白ぇな」
絞り出したクッキーを指して、くす、と笑う。
「こっちはなに」
「マドレーヌ」
「ふうん? パンみたいなもん?」
「ううん。もすこしフワフワしてて甘い。も少し冷めたら、一口食べて?」
「ああ」
説明してると、何だかおかしそうにクスクス笑いながらルカが頷く。
「なー、ルカ。ソラのクッキーとか、売っていい?」
「ん?」
ジェイの言葉に、ルカが視線を流す。
「さっきソラとは話したんだけどさ。この分量でオレが作って、ソラのお菓子って事で売るし、売れた分いくらかはソラに払うって事で。そういう事しても良い? 店に置いときゃ売れると思うんだよな」
「――――……」
聞いていたルカが、ちら、とオレに視線を投げてくる。
良いって言って。
そんなお願いとともに、ルカをじっと見つめ返していると。
ルカは、ぷ、と笑った。
「ああ、いい。つーか、ソラはそれが嬉しいんだろ?」
「うん!」
「じゃあ、ダメな訳ねえし。菓子の値段とかはジェイと相談して決めろよ。んでいくらソラに入るかとかは――――……」
「ちゃんと妥当な金額で決める」
ジェイの言葉に、ルカはすぐに笑んで頷く。
「ソラがジェイと話して決めろ」
「うん。……ありがと、ルカ」
何となく、お礼を言ったら。
一瞬ルカは黙って。
腕を引かれて、ちゅ、とキスされた。
「色々片付いたら船の方来いよ。あっちで、修理してる皆と食いたいから、持ってきて、ソラ」
「……うん」
……めちゃくちゃ自然にキスして。
ジェイの前だからと固まってるオレを撫でながら、そんな風に言う。
「アラン、話してたオレが消えて今頃驚いてるだろうから、先向こう帰ってる」
そのルカの言葉に、ジェイはクッと笑った。
「確かにな。騒いでそう、あいつ」
「だろ? だから、後でな、ソラ」
うん、と頷くと。
じゃあな、と言いながら、ルカが店を出て行った。
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