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「中身が魔物?」
花嫁修業的な感じに、頷くのを躊躇っていると、ルカが笑って。
「まーそんなとこ?」
そう言った。
えっ。
ルカの返事に、ぱっと、ルカを見つめる。
習いたいとか言った記憶が無いんだけど……。
作ってみたいなーとか、キッチン借りたいなーとかだったよね……違ったっけ??
「分かりました。えー、ソラ、ですね」
「あ、はい……」
「ジークです。料理の修行は多少厳しいですが、王子の為ですし、頑張れないことはないでしょう」
「あ……は、い……??」
修行……すんの? オレ?
「いつ帰られるんですか?」
ジークがルカに聞いている。
「まだいつか分かんねえ」
というルカに、ジークは、分かりました、と頷いた。
「帰られるまでには、色々ソラの為の準備をしておきます」
「おう。頼んだ」
「はい。では王子も皆も、お気をつけて」
「ああ」
ルカに一礼して、皆の顔も見てから、ジークが部屋を出て行こうとして――――……。
「あ、ちょっと待て、用事が終わってない、ジーク」
「はい?」
立ち止まって振り返る。
「これから少し船で海に出るんだ。すぐ終わるかもしんねえし、しばらくかかるかも。船でソラに料理できるものはしてもらおうと思ってるから、使いやすそうな調味料とか、こいつに渡してやってほしい」
「なるほど」
「そっちのがメインの用事。食事が終わったら、もう発つから、用意できるものだけでいいから頼む」
「分かりました。すぐに用意します」
頷いて、足早にジークが出て行った。
えっと……。
調味料の事は、良いとして。
えっと。
「ルカ、オレ、修行、することに――――……なったの??」
「……あの感じだと、ほんとに修行になるかもな。まあ頑張れ」
……修行するのか、オレ。料理の。
…………なんかあの感じだと。
花嫁修業的な感じで。愛するルカの為だから、みたいな感じで……。
なんかさっきから、リアとゴウとキースが、ずーっと、クスクス笑ってるし。
「ていうか、ルカ、あの感じってさ…… 花嫁修業的な……」
そう言った瞬間、ルカ以外の皆が、ぶー、と吹き出した。
「何で笑うんだよっ」
そう聞くと。
「だって――――……笑うでしょ?」
「ジークなー、良い奴なんだけど、すげーマジメなんだよ」
「……ソラ、頑張れ」
リア、ゴウ、キース。
皆めちゃくちゃ楽しそうに笑ってるし。
ああ、なんかすごいマジメって分かる気がする……。
キースの「頑張れ」に何か、すごく色々含まれてる気がする。
「もー、何でルカ、そうかも、とか言ってんだよー!! もー!!」
そう言うと、ルカは、はは、と笑い出して。
「お前の顔が面白ぇからつい」
「ルカー……」
絶対あの人、超マジメに修行させてくれちゃう人な気がする。
「帰ってきたらちゃんと、言ってやるから。でも少しはこっちの料理覚えるのもいいだろ?」
「……うん。まあそれは」
頷きかけると、リアたちが、クスクス笑うので、ん?と顔を見ると。
「ほんと素直というのか、なんなのかな……」
笑われながらのその言葉で、また乗せられそうになってた事に気付いて、ルカを振り返ると。
「ソラ、チョコの実食べるか?」
「食べ……食べない」
また頷きそうになって、今度は自分で気づいて、ぷい、とルカと反対方向のリアの方を向く。
もー聞かない。
もー、チョコの実なんかで騙されない。
そのまま、食事を続けていると、しばらくして。
「ほら、ソラ。口」
何なんだー、今まで静かだった間、むいてたのかー。もー!
開けるもんかー。
「ソラ」
クスクス笑うルカの呼ぶ声。
「ほら、もう飯終わったろ?」
腕を掴まれて、ぐいと引かれて、ルカの方を向かされる。
「ほら」
何やらまた、むかれたチョコの実がこんもり置いてある。
「……ミウにあげてよ」
「――――……食うか?」
食べるのが悔しくて言ったのに、ルカは、オレの膝のミウに聞いて。
そっとミウの口元に実を出してる。
ぱく、とミウが食べて、ほくほく嬉しそうにモグモグしている。
……可愛い。
……つか、ルカとミウのやり取りが可愛いとか。
可愛くないよな、可愛いのは、ミウだよな。
思った瞬間。
「王子――――……」
レジーが、顎に手をやって、考え込んでいる。
「……中身、魔物か何かに乗っ取られたとか、そんな事はないですか?」
マジメな顔して、何言ってんだろうと思ったら、ルカが、ものすごい嫌そうに。
「ある訳ねーだろ」
嫌そうな声に、ああ、ルカらしくないってことなのかと分かった時にはもう、三人が大笑い中で。キースまでが、めちゃくちゃ笑ってる。
そんなの全く意に介さず、ルカはいくつかミウに食べさせた後、オレを見上げた。
「ほら、食え」
「……ん」
何だか。ミウとのやりとりが可愛かったので。ついつい、食べてしまった。
すると、ふ、とルカが目を細めて、笑う。
――――……こういう時。
ほんと優しい顔、する。
……普段は、ムカつくけど。ふん。
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