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「嫌な予感」

 デカすぎる怖い顔の魚も、まあ、切り身になってくれれば、普通の魚。  フライパンでジュージュー焼いて、香草っぽいので臭みをとってみたりしてみる。  よく分からない草だけど、まあとりあえずアランはまだ上に居るし、一人だから適当にやってみる。  さっきは絶対ルカのスープ飲んでやると思ったけど、結局カップに入れた分も冷めちゃいそうなので鍋に戻した。  でも、よくよく思い出しても、納得いかない。  ……アランの言うこと、素直に聞くって何だよ。意味分かんない。  オレ、今までそんなに嫉妬とかされた記憶も、正直そこまでないから、なんかいまいちピンとこない。  ルカは、なんかすこーし記憶をたどるだけでも、なんか、ちょこちょこ色んなことにヤキモチっぽいものを妬くような?  それらが全部本気なのかがよく分からない。ていうか、冗談なんじゃないかなって思ってるから適当に流してると、さっきみたいな、恥ずかしい目に合う気がする……。  皆は、皆の前でルカがオレにキスしても、全然気にしてなさそうだけど、オレが恥ずかしいし。  もー、何なんだ。  アランにヤキモチとか、全然必要ないし。  アランはふざけてるけど、別にオレにほんとにちょっかい出してくる訳じゃないし。ルカをからかって遊んでるだけだし。もーほんと、意味わかんない。  ふー、とため息をつきながら、ジュージューと良い音を立てている魚をひっくり返した。フライパンから手を離したところで、不意に、ウエストに回った手に引かれ、気づいた時にはルカの腕の中だった。 「ぅわ。びっくりした。……何、ルカ」 「怒りながら下降りてったから、来てやった」 「……来てやったって……なんて偉そうなんだ……」  思わず言うと、ルカはクッと笑う。 「ほんとお前、面白いよな」 「面白くないし……もー離して、魚、焦げちゃうよ」  言うと、そこは速やかに離してくれる。 「アラン、もう魚さばくの、終わりそうだった?」  隣に立って、魚をのぞき見してくるルカにそう聞くと、ルカは首を横に振った。 「まだしばらく掛かりそうだった。でかいからな……」 「そっか。じゃあスープ、またあとであっためよ……」 「魚、味見させて」 「いーけど……」  端っこの方はもう十分焼けてるから、そこからちょっとだけ取って、ルカの口に近づける。 「熱いよ?」 「ん」  返事をしながら開いたルカの口に、魚を近づける。  なんか、よく食べさせてもらってるけど、ほんと、食べさせるのって、あんまり無い。なんかこっちのほうが恥ずかしいって、ほんと、何なんだろう。食べさせてもらってるのに、慣れちゃってるみたいで、ちょっと嫌……。  にしても。端正な顔。……って、こういう顔のこと、言うんだろうなぁ。  顔整った、超イケメンでドSな勇者設定……誰だ、作ったの……。  ……ゲーム、かぁ……。またそこで思考が止まる。  ルカが、ぱく、とくわえた瞬間。「あち」、と顔をしかめた。 「だから言ってるじゃん」  クスクス笑ってしまうと、ルカも苦笑い。  しばらく、無言で食べてから、ルカが、ふ、と笑った。 「塩味?」 「うん。塩と、多分臭みとる草……」 「うまい」 「良かった。……でも、あの魚、顔、すごい怖いよね。美味しそうに見えなかった」  そう言うと、ルカはオレを見下ろして、クッと笑い出した。 「生きてる時はもっと険しかったぞ」 「……見なくて良かった~……」  あと少し蒸し焼きにして火を通そうと、フライパンに蓋をしめて、箸を置いた瞬間。ぐい、と引き寄せられた。   「わ。……何?」  ひょい、と抱き上げられて、上からルカを見下ろす感じ。  楽しそうにオレを見上げて、ふ、と目を細めて笑う。  むむむ……。  ルカがすごく楽しそうだと、なんか嫌な予感しかしないのは、オレだけ……??  

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