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「見てたい」
「キスしろよ、ソラ」
ニヤリと笑って言うルカに、やっぱり、と少しうんざり。
「……オレまだ完全にさっきの許してないのに」
しかも、するんじゃなくて、しろよと来たし。
「もう今笑ってたろ」
ふ、と笑われて、まっすぐに見つめられる。
「……何でオレからキスすんの?」
「キスすんのに理由がいるか?」
「……要る!」
「……じゃあ――――……」
「――――……」
「……オレを好きなら、キスしろよ」
そんな言い方に、目が点。
……なんなんだー。このオレ様男ー!
皆の前でキスしたり、からかったり、もうほんと、そういうとこは、嫌いなんだからなっ。
……と思うのだけど。
なんだか、期待された瞳で下から、じっと、見つめられていると、言葉になって出てこない。
「――――……ほら。早く」
なんだか、すごく至近距離で見つめられて。
ちょっと優しい声で急かされると。
「――――……」
引き寄せられるみたいに。
唇を重ねてしまった。
重ねるだけのキス。少し触れてから、はっと気づく。
もう、超簡単に、ルカの思うままにキスしちゃったし……!
オレのバカー!
激ちょろー!!
……心の中で散々叫んで、本当に、そう思うんだけど。
――――……なんか、ルカが、めちゃくちゃ優しく笑うから。
なんか、いいような気がしてきてしまうのも、事実。
「……キスしたけど」
「ん?」
「おろしてくんないの?」
「……もう一回」
「――――……」
もう一回も二回も三回も……変わんないし。
という気分で、ルカに、キスする。
ふ、と笑ったルカに、とん、と下におろされる。
「……何がしたかったの?」
「――――……エプロンしてるソラとキスしたかっただけ」
「え。それ本気で言ってたの?」
「それって?」
「エプロン姿良いって」
「……何でオレが、そういうことでお前に嘘つくんだよ?」
「嘘っていうか……冗談なのかなって」
「そんな冗談言ってるほど暇じゃねーし」
「――――……」
……いつも言ってるじゃん、冗談。
と思って、ふと、気づく。
もしかして冗談じゃないの? ルカが言ってること全部。
からかってるだけかと思ってるんだけど……。
「……ルカって、冗談、よく言うよね?」
「――――……言わねえよな?」
「……たまに、アランに、つっかかってるやつは? あれ、冗談みたいなものでしょ?」
「冗談でなんか言ってねーけど」
まじまじと、目の前の整った顔を見てしまう。
確かに今は嘘言ってるっぽくはないけど。
……今まで冗談だと思ってスルーしてきたこと結構あるような。
――――……今の聞かなかったことにしようかな。…………うん。そうしよう。
でもなんかどうしても聞きたくて、ルカを見上げて。
「……ルカって、オレのエプロン姿、好き?なの?」
そう聞いたら、ルカは、二ヤと笑う。
「ん」
「……-本気で?」
「だから、冗談なんか言ってないけど?」
「――――……」
本気なのかぁ……。そうかぁ……。
「えっと……とにかく、オレ……ごはん。続き、作るね?」
「ん」
ルカが微笑んで、オレの頬にキスした。
「また少し、上行ってくる」
「うん。いってらっしゃいー」
ルカが姿を消してから。オレは、ふー、と息をついた。
「……」
――――……ドS設定だもんなぁ。
……意地悪したり、わざと恥ずかしいこと言ったり、そういうのするもんなぁ、ルカ。
……全部が本気とか。絶対嘘だ。うんうん。
「……」
まあその「設定」ってやつが、そもそもよく分かんないんだけど。
ここがあのゲームの世界なら、それってどういうことなんだろう。何度も何度も考えるけど、全くわからない。
ゲームの世界に転移したって、そう捉えれば、いいのだろうか。
……そんな漫画みたいなー……。
いつか。分かる日が来るんだろうか。
オレ、それが分かったその後も――――……。
ルカと居れるのかな……。
って。
……そんなにルカと、居たいのか、オレ。と苦笑い。
オレ様だけど。されること、色々恥ずかしいけど。
……たまに意味わかんなくてむかつくけど。
……ルカがオレを見る瞳と顔は。
なんか、ずっと見てたいなと。思っちゃうのは。どうしてだろ。
そんなことを考えながら、フライパンの蓋を開けて、火を消した。
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