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「カラフルな魚たち」

 めちゃくちゃウキウキしながら着替えかけて、下着をはくのか少し考える。  結局下着ははかずにズボンをはいた。海パンみたいな感覚だから、下着無くていいよね。……なんか変な感じだけど。上は脱いで、薄い、羽織るだけの服を着た。 「ミウ、おいでー」  呼ぶと、フワフワと浮かんでついてくる。  急いで甲板に戻ると、ルカがもう短いズボンと上半身裸になっててオレに視線を向けた。皆で何かを囲んでいるので、そこに近づく。 「何してるの?」  覗き込むと、ビニールで出来てるボートみたいなものが置いてあった。 「わあ、何、ボート?」 「ボートの上からも海中は見えると思うよ」  準備をしてくれながら、アランがオレを見て、そんな風に言って笑う。 「ここらの海に、人を食べるやつはあんま来ないと思うけど……まあさっきまで荒れてたから、変なの居たら困るし、ルカから離れんなよ?」 「うん、離れない」  怖いから絶対、離れません。  うんうんと頷いて即答してると、ルカが横で笑ってる。  空気を入れ終えると、船の手すりとボートを長いロープで繋げてから、ボートを海に降ろした。 「ソラ来い」  ルカの側に行くと抱き上げられて、そのまま、ふわ、と浮かぶ。  浮かぶ能力、というよりは、風に乗る、ていう感じで、風が周りを吹き抜けてく感じ。……この時の、ルカの風は、すごく心地よい。  すと、とボートの上に降ろしてもらうと、船に居る皆がこっちを見下ろしてくる。 「ソラ、楽しんどいでー」  リアが笑いながらそう言って、皆と一緒に手を振ってる。うん、と手を振り返してると、ルカが「ソラ、見てみろよ」と言って、海を指した。  何々?と、ボートの端から、海を覗き込んでみる。 「うわー……すごい、綺麗」  なんか、綺麗な色の魚がいっぱい居る。  紫とか黄色とか、ピンクとか。 「泳いでみるか?」 「うんうん!!」  ルカは一応持ってきてたらしい剣をボートに置くと、先に海のなかに入った。 「少し待ってろよ」 「うん」  少し息を吸うと、海の中に沈んでいった。  ふわふわ浮かびながらオレのところに降りてきたミウと、待つこと数秒。  ざば、とルカが顔を出した。 「変なの居ねえから、大丈夫。来ていいぞ」 「うん!」  羽織ってた服を脱いでから、ふとミウを見上げる。 「ミウも泳ぐ??」 「泳げる気がしねえけどな」  ルカが笑いながらそう答えてくる。  まあ……確かにそんな気も……。 「じゃミウ、泳ぎたかったらおいでね」  よしよしと頭を撫でた後、オレはルカの近くから、海に入った。  少し冷たいけど、心地いい感じ。  ミウは水には入らずに、頭の上をフワフワ浮いてる。 「少し寒いか?」 「大丈夫! 潜ってもいい?」 「ああ。ついてくからいいぞ、好きな方行って」 「うん」  すう、と息を吸って、海に潜る。  目の前、澄んだ水の中に、色とりどりの魚。  すっごいすっごいすっごい、綺麗!!  しばらく泳いで進むけど、息がもたなくなったところで、上に。  ルカも一緒に上がってきた。ミウが、オレ達が顔を出したところまで、フワフワ飛んでくる。  何度か呼吸をしてから、オレはルカを見つめた。 「すっごいめちゃくちゃ綺麗だね」 「ああ。……って、ソラの世界の海は違うのか?」  ふ、とルカが笑いながら聞いてくる。 「綺麗なとこもあるけど……魚の色が、全然違う。こんなに色ついてないんだよね」 「ふうん? 何色なんだ?」 「んーと、灰色かなあ? あ、でも綺麗な色の魚も居るんだけどね、もっと小さくてさ、すごい可愛くてさ。こんなでっかい魚がカラフルとか……」  沖縄の海なんかを想像しながら話していたら、ふと頬にルカの手がかかって。ん? と思っていたら、ルカが近づいてきて、キスされる。 「――――……なに?」 「いや? 楽しそうで可愛いから」    しれっとそんなことを言うルカに、ちょっとムッとする。 「……キス、しないって言ったじゃん、さっき」 「ああ……さすがに海ん中で、軽くしたキスじゃ、その気にはならないって」  クスクス笑いながら、ルカはオレの頬をぷに、とつまむ。 「それとも、お前がその気になるか?」 「……っ……ならないし……!」  すぐ近くから見つめられて、むっとしてちよっと睨むと、ルカは可笑しそうに笑う。 「もう一回行くか?」 「……ん、行く」  頷いて、息を吸って、また海に潜る。  ――――……その気になる、とかじゃないけど。  ……キス。されないと思って油断してるところにされると、ものすごいドキドキしてしまうというか。なんだかな、もう。   海の水が冷たくて、良かった。

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