260 / 293

「イチコロ」

 オレが呆然と見守る中。  風が波を吹き上げて、次々と噴水みたいに立ち上る。 「わ……」  水の柱がいくつもできていって、どんどん大きく吹き上げられていく。白い水しぶきが、空を舞って、空中で踊る。 もう圧巻。 日本で噴水ショーとかを見たことあったけど、それは基本、下から上、だし。今は、風が自由に動いてるから、それとは全然違う。  最後にめちゃくちゃ、大きな噴水が空高く立ち上って、それが落ちてきたら、すごい水しぶきが上がりそう、と思った瞬間。それが、シュパ、と音を立てて、粉々に。……雫というよりも、霧みたいな、すごく細かいものになって、それが、ぱらぱらと、舞う。  肌に触れて、すこし涼しい程度。水と認識できないような感じの細かい霧みたいで、それによって、月がぼやけてすごく大きく見えて、星も同じく。  なんだか、キラキラの霧の中で、光って見える。 「綺麗ー」  リアが楽しそうに言う声に、はっと気づく。  あんまりに見惚れてて、声も出なかった。  キラキラは風に吹かれて、静かに消えた。 「――――……」  うわー……と思う。 なんか、びっくりしすぎて、それ以外の感想が出てこないままルカを見上げると。ルカは、ふ、と笑んだ。 「……好きか?」  ……なんかすごく悔しい。  カッコいいって思ってしまったし。  …………ルカのくせに、やってることロマンチックすぎて。なんかよく分かんないけど、悔しい。  ルカのくせに。エロエロなルカのくせに。  ……と思うのだけど。 「……うん」  思わず頷くと。  ふ、とまた優しく笑う。  ……胸。痛いんですけど。マジで。  ずるくない? ……オレの人生で、もう絶対、こんなことしてくれる人、現れないじゃん。なんか、色々普通じゃ無さ過ぎて。……ほんとずるい。ルカ。 「いいなー今の。女の子とかにやったらイチコロだよね。オレも風の魔法、覚えよっかな?」  アランが感心したように言ってて、皆が笑いだす。 「女じゃなくても、イチコロみてーだけど?」  ゴウが言ったのを聞いて、少し後、「ん?」と振り返る。  もしかしてオレのこと?とゴウと目が合うと、皆がまた笑い出して。 「もー、可愛いなぁ、ソラ」  リアにも可笑しそうにクスクス笑われて。  オレは、むくれながら、隣のずる過ぎる王子を、ちょっと睨むと。 「初めてやったけどな」  そう言って、笑うルカ。  ……オレに見せたのが初めてってこと?  そんなダメ押しで、きゅんとする気持ちを押しつけてくるルカに、なんだかな、と。  ちょっと照れくさすぎて、むむ、と見つめてしまう。

ともだちにシェアしよう!