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「火の魔法」
ルカのずるすぎる演出というか、魔法のショーみたいなのを見た感動も落ち着いた。なんとなく飲みながら、食べながら。たまに話しながら。星空を見上げたり、海を眺めたり。
ずーっと、まったりした時間が続いてる。
オレは、ルカの立てた膝になんとなく寄りかかったまま、ふと何度も思ってることをまた口にした。
「いーなー、ルカ。魔法。オレも使いたいー……」
そう言うと、ふ、と斜めに見下ろされて、その瞳が優しく緩む。
「お前はそればっかり言うよな」
「だって羨ましいし。せっかく魔法のある世界にきたら、使えるようになりたい」
そういえば、ここに居る皆は何かしらの魔法は皆使えるんだよな。
ゴウはあんまり魔法を使わないイメージだったけど、結界とかは自分の周りだけは張れるみたいなことも言ってたし。キースとリアはもうすごい訳で……。
「ルカルカ、今さ、オレに、何か教えてみて??」
「ん? 今?」
「うん。今。暇じゃん! やってみたい」
意気揚々と頷くと、ルカは面白そうにオレを見た。皆もクスクス笑ってる。
「じゃあ……少し起きろ」
よっかかっていた背を起こされて、姿勢をまっすぐにして座る。
ルカと向かい合う感じで。
ちょっとドキドキする。
どうしよう、意外と、すぐできちゃったりなんかしたら。
わくわく。
「……完全に初心者だとイメージしやすいのは……」
言いながら、ルカがちらっと皆を見ると、「火じゃない?」とリア。ゴウとキースも頷く。「だよな」とルカが笑う。
火なんだ。
火の魔法。
使えるようになったら嬉しい。
「魔法は武器とか分かりやすいものを使うものじゃないだろ?」
「うん」
「イメージの力が大事だから」
「うん」
「だから一番、イメージが作りやすい、火の魔法、な?」
「うん」
わくわくしながら頷く。
「頭の中で……というか、ここらへんかな」
とんとん、喉の少し下。体の真ん中辺に触れられる。
「とにかく自分の真ん中に、火のイメージを持って」
「……うん……?」
火のイメージ……。
考えてるオレの手を取って、手の平を上にして、人差し指だけ伸ばさせてあとは軽く握らせる。
「今は小さい火をイメージして、一点集中な。この指先に火を出すって強く思う」
「――――……」
小さい火のイメージ。
……ライター、とかかな。マッチとか……?
心とか頭とか、とにかく何となく自分の真ん中で、火をイメージしてみる。
「自分の中にイメージできたら、指先に火がでるイメージを思い浮かべる」
ルカの、いつになく静かな声が、響く。
なんだかそれに緊張して、急にオレの中の真剣さが増していく。
全部イメージなのか。
……そうか、実体がある訳じゃないもんね。自分の中から出すのか……。
じっと指先を見つめたまま、しばらく。
その間、誰も何も言わない。海も静かで、波の音も聞こえない。
「――――………………むり。みたい」
しばらく頑張ったけど、出てこない。
オレが言った瞬間、皆も、ふ、と苦笑い。
「見てな、ソラ」
「うん」
「――――……」
ルカがオレの目の前に出した右手を見つめていると、ぽ、と小さな炎。
なんなら、全然集中なんてしてない感じで、出したように見える。
「……別に指から出してる訳じゃないけど、ここに出すって、強く意識する」
うんうん、と頷いてると、ふ、と息を吹きかけて火を消す。
おお。なんかカッコいいぞ。
ウキウキしてると、ルカが、面白そうな顔でオレを見つめて、頭をグリグリ撫でてきた。
「まあ、頑張れ」
クスクス笑いながら言うルカに、うん、と頷く。
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