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「穏やかな」
海はすごく穏やかだった。青空が反射して、真っ青に見えるし、水面がキラキラしてる。
全部灰色だった少し前とは、全然違う。とても綺麗な海。
ルカの風の魔法に押されて少し早く進むけれど、ひどく揺れることもなくて、快適。
皆の笑顔と、楽しそうな声。
食べたり飲んだり、そのまま昼寝したり。皆でずっと、甲板で過ごした。
時には船を止めて、海で泳いだり、魚を釣ったりした。それをてんぷらにして、夕飯を作る。
夕日が沈んで、星がぽつぽつと。
甲板に座って、早い夕飯を囲んで、また増えていく星を眺める。
その内、真っ暗になると、満天の星。
本当に綺麗で。
なんかもう感動。海の音も静か。
プラネタリウムよりも、綺麗な、星空。
「……向こうの世界にね」
「ん」
「プラネタリウムっていうのが、あるんだよね……」
「プラネタリウム?」
「うん。向こうはさ、星がこんなに見えないから、作り物の、星が見える機械が作られてるんだけどね」
「作り物の?」
ルカがオレに返事をしてるけど、皆もちょっと不思議そう。
「星が好きな人はいっぱいいるんだけど……明かりが強くてさ、星が見えないんだよ。人が住んでない田舎に行くと、見えるとこもあるけど……」
「作り物は、綺麗なのか?」
「うん。……綺麗だって、オレは思ってたんだけど……」
空をぐるっと見回してから。
「この星空に比べたら、まだまだだった」
ふふ、と笑ってしまう。まあでも。本物に勝てる訳ないよね。
――――なんとなく、こういう時、ルカはいっつも近くに居て、オレを後ろから抱いてて。少し夜は寒いから、包まれてると、幸せだったりする。
魔物は確かにたまに出たけど、あの大きい魔物とかとは比べ物にならなくて、ルカ達の敵ではない位のだったから、もうほんと一瞬だったし。
だから今日は、とっても穏やかな時間を、過ごした。
この世界に来てから、あちこち移動ばっかりで、何かを倒しに行ったり、誰かに会いに行ったり、何かすることがいつもあって忙しかったから。なんだか初めてすごくゆっくりできた感じ。
あの魔物の討伐が、なんだかすごく大変だったからこそ、今このゆったりがすごく大事に感じて。
皆と、のんびりしてられるこの空間が、すごく楽しかった。
「明日には、もう、着いちゃうんでしょ?」
アランに聞くと、「着きたくないみたいだな?」と笑われる。
「今日すごく楽しかったから」
なんか寂しいんだよね、と思ってると、アランが笑う。
「遠くに魚捕りに行く時、また連れ出してやるよ」
「ほんとに?」
「いいよ。――――どうせルカもついてくるんだろ? お前らも?」
アランがクスクス笑って皆を見る。
「早朝出発とかじゃなければいいけどな」
ゴウが笑いながら言う。
「飲み明かしてそのまま行けばいいんじゃねーの」
ルカが言うと、それもいいか、とゴウが笑う。
「寝不足だと酔うぞー。面倒見ないからな」
アランがクスクス笑って返して、皆が笑う。
船の最後の夜は本当に穏やかに過ごした。
夕飯を片付けて、皆と別れてルカと、部屋に入った途端、ひょい、と抱き上げられてベッドに運ばれる。
「ルカ?」
唇が重なってきて、舌が触れる。すごく優しいキス。
「……?」
すぐ抱こうとはしてない触れ方に、ゆっくり目を開けて、ルカを見つめていたら、ふと、唇が離れた。
「……ルカ?」
「なんか考えてるだろ?」
ふ、と笑んで、オレの頬をつまんでくる。
「ん……別に……特に変わったこと考えてる訳じゃないよ。前からずっと、いっつも思ってること」
「ん。言ってみな?」
「あのでっかいの倒してから、ずっとさ、皆と船の上で楽しくて」
「ああ」
「それで、また今度アランが船に乗せてくれるって。皆も一緒に、とか話しててさ、すっごく楽しみなんだよね」
「ん」
そう。楽しみなんだけど。
「……なんか、楽しかったり、楽しみなこととか……それが強いとさ。オレいつまで、ここに居れるのかなあとか、また考えちゃっただけ」
約束、守れたらいいなあという願望と、守れなかったら嫌だなあという心配。
なんかこんなにゆっくりで穏やかだと、余計考えてしまうみたい。
考えてもしょうがないの、分かってるんだけどさ。
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