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「帰還」

     港に近づくと、集まっている、たくさんの人達の姿が見える。 「何で帰るの分かったんだろ」  オレが言うと、アランは笑った。 「波が静まった時点で分かってたから、多分交代で帰ってくるの見てたんだと思うよ。見えたから、皆を呼んだんだろ」 「あ、なるほど」  すごい。……大歓迎だ。  まあ、そっか。シャオの町は、海の町だもんね。海に出られなかったら、どうしようもないところを、ルカ達が救ったんだもんね。 「階段下ろすの時間かかるから、先ルカの魔法で下りてていいよ」  そう言ったアランに、ルカは首を振った。 「船を出したお前が居ないとおかしいだろ」  ルカがそう言うと、皆も頷く。もちろんオレも。  出てから何日経ったんだろう。  随分長かったような気もするし。意外と短かったような気もする。  魔物と戦ってた時間はすごく長くて、その後皆と楽しかった時は、短かったのかな。そんな風に思う。  近づくほどに、港が賑やかで、喜んでる空気が、ものすごい伝わってくる。自然と笑顔になるのは、皆も一緒みたいで。  アランがゆっくりと接岸させて、階段をかけてから、皆で船を下りた。数えきれないくらいの人達の歓声と拍手の中で、町長がルカに歩み寄ってきた。オレ達全員を確認すると、ルカに対して、深く敬礼する。  周りの人も敬礼し、それがどんどん後ろの人達にも伝わっていって。不意に静かな空間に変わった。  壮観。  集まったたくさんの人達が、ルカに近いところからさーっと静かになっていって、ルカと皆に敬礼している。  オレはもちろんおまけだけど、その光景に、なんか感動しすぎて、じわ、と涙が滲ぶ。 「ルカ王子と皆さんの勇敢さに感謝いたします。この町と海を救って頂いたこと、決して忘れません」 「ああ」 「無事に帰ってきてくださり、本当になんと感謝の言葉を申し上げたらいいか……本当にありがとうございました。何度お礼を言っても……」  ずっと続きそうな町長の言葉に、ルカは、「礼は一度でいい」と言った。 「魔物を倒すのは、倒す能力があるオレ達が行けばいい」  ルカは、ふ、と笑って、周りに聞こえるように、はっきりとそう言った。 「アランと、この町の船の技術が無ければ、海にすら出られなかった。これからもっと栄えてもらえればいい」 「はい。ありがとうございます」 「だからもう礼は良いって。それより――――宴の用意はできてるか?」  ニヤ、と笑ったルカに、もちろんです、と言う町長。  やりとりを見守っていた町の人は、町長がもう一度深く頭を下げると、わぁ、と歓声を上げた。  あ、それなの?  急に変わった雰囲気に、オレが苦笑いを浮かべていると。 「アラン、お帰りー!」  アランは仲間たちにもみくちゃにされている。  町の女の子たちが、ルカの腕をとって、王子来てください、と嬉しそう。  ゴウとキース、リアとオレにも女の子たちが囲んできて、ご案内しまーす、と大騒ぎ。 「ルカ!」  アランの声に、ルカが振り返る。 「先飲んでろよ、うまい魚とってくる」 「今からか?」  呆れたように言ったルカに、アランは自分の周囲の仲間を見回してから、楽しそうに笑う。 「こいつら、久しぶりに漁に出たいって。オレも行きたいから行ってくる。――――うまい刺身、食わせてやるよ」 「分かった。待ってる」 「またあとでな」  アランがオレ達にも手を振りながら、また海の方に向かっていくので、こっちも手を振り返す。 「気を付けて」 「お~」  アランと別れて、案内された先は、綺麗な水色の花の咲く大きな樹の下だった。  桜。みたい。でも水色。  あっちの世界には無かったな。すっごく、綺麗。  風が吹くたびに花びらが舞う。  下にシートみたいなものが敷かれていて、そこにテーブル。  次々、運ばれてくる料理やお酒。  うわー。  ……何度目だろう、宴。しかも一番、大騒ぎ。  残らず町中の人が来てるのかなと、笑ってしまう。      

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