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「生きてるって感じ」

 老若男女、関係なく。  とにかく楽しそう。  オレの世界にも飲み会とかはあったけど、それは友達同士とか、学校の何かの集まり、とかそういうのがほとんどで、こんな風に、町の人達で、なんて無かった。もしかしたら田舎だとあるのかなあ? オレそこそこ都会に住んでたから、正直、アパートなんて、隣の人の顔も良く分かんない。あの場所で会ったら、挨拶くらいしたけど、もしかして、別の場所で会ったら顔分かんないかも。その程度の付き合い。  別に悪いと思ってはいなかった。  皆自分の生活があって、時間もバラバラで、会わないし、しょうがない。……しょうがないとすら思ってなかった。そういうものだって。  こっちの世界に来て、なんだかすごく楽しそうに笑う人達を見てたら。  こういうのも、いいなあ、とすごく思う。  その中心にいつも、ルカ達が居て、なんだかすごいなあって思って。  まあでも、これを都会でやるっていうのがそもそも無理な話なのは分かってるけど。  こういう方が、生きてるって感じがするような。  こんな、どこなのかも良く分からない世界で、より生きてるって感じるとか、それもまた謎なのだけど。 「お兄さん、名前は?」 「ソラ」  蒼空、だけどね。本当は。水森 蒼空。みずもりそら。  苗字がない世界。言っても、変な顔をされるから言わないけど。二文字で名乗るのも慣れてきたなあ。 「ソラ、一緒に踊ろう?」 「え、踊れないけど」 「弾むだけでもいいよ?」  ダンスをしてた女の子に誘われて右手を取られて、どうしようと思っていると、隣にいたリアに、「いいねー行こう、ソラ」と左手を取られた。つまり、両腕、女の子に取られて、連れ去られる感じ。  踊るー?! 無理―! いやだいやだと言いながらも、女の子を振り解けないまま。 「ソラ、頑張れ」 「おおーいいぞー」  キースとゴウが、面白そうに笑いながら声をかけてくる。  で、ルカはというと。今回も一人、一番のおもてなし席に座らされてる。まあ、もういっぱいの人に囲まれて、次から次にと酌をされてる。  キースやゴウの周りにも、女の子たちがたくさん群がってるけど、やっぱりルカが一番人気。女の子だけじゃなくて、めちゃくちゃたくさん。まあ。王子だもんね……王子さまが町のために魔物退治して回ってくれてるんだもんな。  感謝もするし、人気もあって当然だよね。うんうん。  別にね、常に女の子たちがずーっとまとわりついてるからって、オレは別にむかむかなんてしないもんね。気にしないもんね。  とか言ってる自分も今、そういえば、女の子にひっぱられてて、何やらダンスなんか一緒にさせられてますけど。  はっ。これ、ルカ怒るかな?   と思ったけど、今はルカはオレの方は見てない気がする。大丈夫そうかな。と変な心配をしながら、少しテーブルから離れた、皆が踊ってるところに連れていかれる。  最初はダンスって何って思ってたけど、楽器に合わせて、体を動かすだけみたいで、少し頑張ってると、なんかそれっぽく見えてきたような? 「おーうまいじゃん、ソラ」  アランが戻ってきて、どうやらお魚を刺身にしてきたみたい。  でっかい刺身の皿を持って、オレの近くで足を止めた。 「あ、アラン、お帰りー」 「なんか酔っ払ってない?」 「え? そう?」 「飲んで踊ったら、まわるぞ? そんな強くないんだし」 「確かに。……そういえばちょっとお酒まわってるかも」  言われてみると、ふわふわしてるような気もする。 「やめといたら? んで、刺身食えよ、この魚うまいから」 「うん、食べるー。リア、抜けるねー」  楽しそうに踊ってるリアに言ってからそこを離れて、アランが刺身を置いたところに一緒に座った。

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