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「帰れてよかった」

「たくさん食えよ」  アランに言われて、オレと、周りにいた人達は皆、いただきまーす、と新鮮な刺身を食べ始める。 「これ、ここでだけ食べてていいの?」 「他のとこには、他の奴が持ってってる」  指さす方向を見ると、確かに、新たに置かれていくお刺身の大皿。 「漁師仲間と漁すんの久々で、すげえ楽しかった」  アランの笑顔に、良かったね、と笑うと。 「ソラもありがとな」 「てか、オレはついてっただけだし」 「料理一緒に手伝ってもらったり、色々頑張ってもらったろ」 「んー……役に立った?」 「役にも立ったし、一人でやるより楽しかった」  笑ってくれるアランにオレも嬉しくなって、そっか、と頷く。  アランがモテるっていうのも、なんか分かるな。  ただ、相手が何人もいるっていうのがおおっぴらっていうのは、この世界特有っていうか。自由すぎるけど。 「料理、結構覚えただろ?」 「うん」  確かに、食材や、それぞれの調理の仕方とかも結構覚えられたかも。 「あ、そうだった!」 「ん?」  すっかり忘れてたことを思いだした。 「オレさ、ルカのお城に戻ったらね」 「うん?」 「なんかすっごい真面目そうなジークって料理の人にね、料理を習わなきゃいけないの」 「……そうなのか?」  ふ、と可笑しそうに笑うアラン。 「なんかね、料理の修業は厳しいですが、王子のためですし頑張れるでしょうって言われたんだよ?」 「王子のためですしって?」 「なんか、オレの、花嫁修業みたいな感じで思ってるんだと思う」 「おー……習うっつーか、修行、なのか? それは大変だな?」  アランは、ますます面白そうに笑う。 「笑いごとじゃないのに、皆も笑っててさ~」 「まあいいんじゃないか? 一回修行したら、色々作れるようにもなるだろうし」 「……そうだけど。オレが、ルカのために料理修行とか。なんか不思議で」 「まあそうだろうけど……ルカのために作ってやりたいって気持ちはあるんだろ?」 「ん……あるけど」 「じゃあ頑張れば?」  クスクス笑うアランに、まあそうだね、と笑ったところで、視界に知った顔。 「ソラ!」 「あ、ジェイだー」  むぎゅ、と抱き締められた。 「ジェイ、料理作ってたの?」 「ん、さっきも港は行ったんだけど、すぐ始まりそうだったから即作りに戻ってた。今やっと落ち着いたから、出てきた。おかえり、ソラ。他の奴は……」 「あっちに皆いるよ」  クスクス笑って、皆をそれぞれ指さす。 「ああ、皆、大人気な?」 「うん」  ふふ、と笑う。 「さっきアランに聞いた。お前、魔物の腹に行ったりしたんだって?」 「あー……うん、行ったけど」 「頑張ったなー?」  ぐしゃぐしゃと、頭を撫でられた。 「でも、ミウに連れてってもらって、すぐ出たんだけどね」  そう言うと、ジェイは首を振って笑う。 「腹ン中のルカに、剣を届けたんだろ? すげーじゃん」  めちゃくちゃ笑顔で、ジェイが言うので。 「ん!」  嬉しくなって頷く。 「どうだった? 魔物の腹の中」 「どうだったって……んーと、どろどろしてて、ぐちゃぐちゃしてて……生ぬるくて……うーん、気持ち悪かった」 「へー」 「良かったなー、すぐ溶けるとかなくて」 「ねー、後から思った」  アランとジェイが苦笑い。  そう思うと、ほんと、帰ってこれて良かった。

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