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「紫の魔法」

 テーブルの上に、コップ、倒れちゃった。  入ってたお酒が、零れて、拭かなきゃと思うのだけど、それが出来ない。テーブルに手をついた。 「――――……」  目の前が、くらくら、する。 「ソラ?」  聞き慣れない声。……誰、だっけ。振り仰いで顔を見る。  ああ、さっきから、少し、話してた子だ。 「あ……ごめん、ユイカ。――――……水、もらえる?」 「気分、悪いですか?」 「うん、なんか……」 「顔、洗いますか?」  ……顔……そう、だな、洗おうかな。  立ち上がると、余計ふらつく。 「ソラ、こっちにお水があるから」 「……ん、ご、めんね」  手を取られて、一緒に歩き出す。  皆が騒いでる中。  なんだか、すごく頭の中、ぼんやり。  うわ……すっごく……気分悪い。  ユイカと一緒に水道のところに辿り着いて、出された水に手を触れさせて、水を手にすくって、顔をつける。  支えられて歩いてきて、建物の影に入ったみたいで、皆が居るところの騒ぎが少し遠く聞こえる。  水、少し気持ちいい。  でもやっぱり、すっごく、ぼー、とする。俯いて、はぁ、と息をついた時。  その時。  何かが手首に触れて。  何だか、聞き慣れない、音。 「――――……?」  何の音、だろう。  俯いていた顔を上げた時。  ユイカの手から、何かがひらりと、地面に落ちた。それをたどって、そこに、ミサンガっぽい紐を見つける。   ……?  自分の手首を見ると、ついてたミサンガが無い。  あれ? 切れちゃった?  ルカから、もらった、のに。  拾おうとした瞬間、ふらりと揺れて、地面に膝をついた。  痛た……。なにこれ、ヤバいな……。 「ソラ……」  ユイカが、オレの肩に触れた。  ごめん、ユイカ、ルカを、呼んできて。  そう言おうと思った時。  ぶわ、と突然風が起こった。下から、吹き上げられるみたいな。  ……え? 思った瞬間。ふわ、と体が浮いた。俯いていた顔を起こすと、この魔法は、ユイカから発せられてるとしか思えない。紫色の光で、ユイカのまわりが光っている。 「ソラ―!」  リアの声がする。探してくれてる。  ――――……今の状況、全然、なんだかよく分からない。  でも、結界だって、皆が言ってたミサンガが切れて。……切ら、れて……?  よく分からない魔法に、引き込まれそうになってるのは、分かる。 「リア……!」  こっちを覗き込んでくれたリアの姿が見えて、叫んだところで、オレは紫色に包まれた。リアが見えなくなった。声も届かない、と、とっさに悟る。リア、すごいびっくりして、手を伸ばしてたけど、巻き込まれては、ないよね……? とっさに、見回すけど、何も見えない。  感覚的には、リアの移動魔法の中に似てるけど……暗い。 「ソラ、寝てて」  ユイカの声が頭に響いた瞬間。  それが呪文であるみたいに、すぐに頭が重くなって……何も、考えられなくなった。

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