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「言ったじゃん!」

 魔王は特に何もしていないみたいに見える。人型の魔王は、思ったよりは普通の大きさ。ルカやゴウと、そんなに変わらない。  ただ、目の前に立っているだけなのに、すごい圧を感じる。魔王の周り、空気が歪んでるみたい。  整った顔はすごく、冷たく感じる。  口元は少し笑ってるのに、どうしてこんなに、冷たく感じるんだろう。 「……っ」  息が、出来ない。  ……何だこれ。何もされて、ないのに、圧、みたいなのが……。  苦しい。  ぎゅ、と目をつむった時。 「――――ああ、そうか」  低い声がして、途端にふっとびりびり感じてた圧が解けた。膝をつく。同時に息ができるようになる。 「人は、本当に脆いな」  冷たい声。……ルカがあったかい太陽なら。魔王は……本当に氷みたい。  は、と息をついて、ぎゅ、と床の上で手を握り締めて、魔王を見上げた。 「名は?」 「……ソラ」 「ソラ―――お前は、何者だ?」  その質問に、オレは眉を顰めた。  何者だ、て言われても……人間? としか浮かばない。それ以外に何がある質問なんだろ。でもなんか、人間て答えたら、怒らせそうな気がして、答えられずにいると。 「お前は、どこから来た?」 「――――……」 「あの戦いの場に、どこから降ってきたんだ」  続けて聞かれるうち、何を聞かれているのかが、少し分かってきた。  急に降ってわいたオレが、どこから来た何者なのかが知りたいんだ。  ……何で? 「お前が現れた時の白い光を、私も覚えている」 「……」 「覚えているは適当じゃないな。――――お前が現れて、思い出した」  近づいてきた魔王に、顎を取られて、グイ、と上向けられた。  赤い光を放つ瞳に、ただもう、釘付けになる。  ……そうだ。ルカが……何か、言ってた。  魔王が現れた時も、光ったとか。   「あれからずっと、勇者らと居たのか?」 「……」  小さく頷くと、興味深そうに、オレを見つめる。 「結界を張って、お前を見せないようにしたのはなぜだ?」 「……」 「王子はなぜお前を側に置いていた?」  なんて答えたらいいのか。  ……苦しいくらいの圧が解けたからと言って、怖いのには変わりはなく。こんな相手に、ルカと寝てるとか、ルカがオレを大事にしてくれてるとか言える気がしない。  だって。  ……ルカの、敵、だもん。こいつ。 「なぜ答えない?」 「……わから、ない」  もうそう答えるしかない。 「見せないようにしてたなんて……よく、わかんないし」 「――――……」 「……オレは、東京、てとこから来た」 「トウキョウ……?」  繰り返して、そのまま、不思議そうな顔を見せる。  何だろう。少し、表情が違う、ような。 「それは、どこだ」 「……」  これは本当に分からないから、首を振った。 「分からないことしかないのか」  皮肉気に笑う。笑うと言っても、他の人が笑うのとは、違う。  楽しそうでは、無い。 「もう一度聞く。お前は勇者にとって、なんだ。なにか 特別な力でもあるのか」 「――――……」  そんなのは無い、と首を振る。黙っていると、魔王が、ユイカ、と呟いた。 「この者について、なにか分かったことはあるか?」 「はい……あの……」 「はっきり言え」 「……ソラは、勇者の恋人、だそうです」 「――――……恋人? この短い間に、勇者の恋人に収まったか?」  勇者と恋人とか。  ……とてもとてもまずいんじゃないだろうか。 「……まだ、恋人、とかじゃ……」  そう言おうとしたのだけれど。 「――面白いな」  ふ、と笑った魔王は、オレを指さした。かと思ったら、ふわ、と、オレは浮かび上がった。 「――――……!」  そのまま、さっきまで寝ていたベッドに落とされる。起き上がろうとしたけど、動けない。  魔王が、ゆっくり、近づいてくる。  ……何でベッド。  ――――……い、嫌な予感しか、しないんだけど……。  ……ル、ルカと同じ趣味とかじゃないよね……泣き顔がとか、言わないよな。ゲームの勇者と魔王が、そんなドエロい奴らとか、そんな訳ないと思うのだけど。  じゃあ何でベッド??  ――――……ルカ……!! もー早く助けてよ……!!  言ったじゃん、どこに居ても、追いかけるって……!!  魔王とルカのお互いの結界が、お互いに感知できないから、なかなか直接対決になってないんだから、大変なのは分かるけど、もうマジで早く来て……!!

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