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「どうすんの、これ」

 アランとジェイと一緒に、いろんな料理を手分けして作った。  料理をしてると、日常に帰ってきた気がして、嬉しかった。  ふと、思った。  ここは夢じゃなくて。オレにとってはちゃんと存在する場所だった。それに、今までいた、家族の住むところも、ちゃんとあるってことで。  オレは、どちらかを、選ばなきゃいけない。  鉄のフライパンで肉を焼きながら、考えてみる。  向こうでやりたいことってなんだろう。  まず……大学、卒業したいよね。せっかく頑張って入ったんだし。卒業して、就職したいし。家族だって、オレがいなくなったら心配するし。……ああ、でも、記憶消せるとか言ってたな。  忘れられてしまえば、家族は悲しまなくて済む……?   オレも――忘れることもできるみたいだったけど。  あいつら、神の二人は、軽く言ってたけど、いやいや……家族を忘れるって。忘れられるって、決めるのは。  相当覚悟がいるってば。 「ソラ、焼けそう? このタレ絡めて、仕上げて」 「うん! おいといて」  アランが隣に置いたタレを確認しながら、肉を仕上げる。  こっちでやりたいこと……っていっても、こっちはまだ来たばかりだし。ルカや皆と居たいなぁっていう、そういうのしか無いかな。  神二人は、ルカがオレのことを忘れないかも、なんて言って困ってたけど、でもきっと、オレが向こうの世界を選べば、ルカはそれを尊重してくれる。  ……パっと見、横暴だから「帰るな」とか言いそうだけど。  多分、そういうの、ルカは無理矢理決めない。  オレが決めたなら、ルカは――きっと、それでいいって、言う。    タレを入れると、じゅう、と音が鳴って、湯気が上がった。  お皿にのせると、「うまそうに焼けたなー」とジェイが褒めてくれる。 「うん」  ――こっちの世界は……生きてるなぁって感じがする。  人と人の距離が近くて、助け合って――。  日本の、もっと昔の時代とかは、こんなだったのかもね。   魔物がいるから、命ってものに敏感だし、助け合おうっていうのも大きいのかもな。  こっちの世界はこっちの世界で、危険だし、大変なこともあるけど。  でも。  ――こっちには、ルカが、いる。 「お待たせ―!」  焼いたお肉や、いろんな食べ物並べて、お酒も飲んで、大騒ぎ。  本当に帰ってこれて良かったーとしみじみ思う。  皆、元はゲームのキャラ達だった訳だけど。  結局は皆が、勝手に生きてきてる訳で。神に作られた存在ってことでは、オレが生きてるのと変わらないんだなと思えて、そこはよかった。  だって、ゲームの世界の、つくられたキャラって言われると……なんかこうして一緒にいても、よく分からなくなっちゃうしさ。  それでも、この世界が本当に、オレのやってたRPGだとすると。  やっぱり魔王を倒すと、世界は平和になるんだよね。  その使命感は、ルカ達は持ってるみたいだし。それだけはもう使命として与えられてるんだろうなぁ。  そしてそれを果たしたら――。  そのあとは、魔王も魔物も居なくなったこの世界で、皆は生きてくんだよね。  オレはその頃、どこで、生きているんだろう。  こっちに残ると決めたら残れる。  自分で、どっちかを選べてしまう。 「にしてもさぁ、ソラ」  アランがオレを見て、しみじみと言ってくる。 「よく無事だったよな。魔王と対峙したんだろ?」 「あ、うん、まあ……」  そう言われてみると、確かに。あんなのと向かい合って、今無事に生きてることが、とっても不思議だ。 「――」  そこまで考えて、ふっと我に返った。  ――無事、に……?  無事……。いやいや、無事じゃねーし!!!  何で忘れてたんだ、ということを、突然思い出して、オレは思わず勢いよく立ち上がった。  ソラ? と皆がそれぞれ口にしながら、立ち尽くしてるオレを見上げている。 「あ。オレ……ちょっと酔った、みたい。風、浴びてくる」 「ついていこうか?」  隣にいたキースが言うので、オレはルカにもらった指輪を見せながら。 「大丈夫、結界もあるし。ね、平気だよね?」  ルカに聞くと、「ああ」と、頷く。  オレは速やかにそこを脱出して、外に出た。木のドアを閉めて、そのドアを背にして一度深呼吸。ズボンの結び目を解いて、ぱっ、と、自分の下腹部を覗きこんだ。  消えててくれ、と思ったそこには。  …………魔王がつけた、妖しい模様。   オレは、一瞬確認してから、すぐにしまって、急いで紐を結んだ。  …………どうすんの、これ。  

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