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第1話
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教室に独特のベルの音が鳴り響き、びくりとリーラは身体を震わせた。
周りの学生たちが、それを合図に口を開き、静かだった教室の中は途端に騒がしいものとなる。リーラも少し慌てて机の上に出ていた本や紙、ペンを片づける。
その時、ペンが転がって下へ落ちそうになり、咄嗟に手を伸ばして動きを止める。
物体には直接触れず、自由に動かすことができるのは基礎魔法の一つだ。魔法力を持つ者であれば、幼い子供でも使うことができる。
午後には実技の授業があるのに。不必要なところで魔法を使ってしまった。
右の手のひらに、力をこめる。そうすれば、淡紅色の光がふわりと浮かび上がり、胸を撫で下ろす。さすがにあれくらいの魔法では、力は減っていないようだ。
「リーラ? 何してんだよ、さっさと行こう?」
大教室の後ろの席に座っていたミヒャエルから声をかけられる。
友人のミヒャエルとは、普段は隣同士の席に座ることが多いが、今日は授業の後に提出する課題が終わっていないからと、一人で後ろの席へ行っていたのだ。
それでも、背も高ければ、金に近い赤毛のミヒャエルの姿は目につきやすいのだろう。教師から指名され、上擦ったような声で先ほども答えていた。
「あ……ごめん」
荷物をまとめて、立ち上がる。教室には既にほとんどの生徒がいなくなっていた。
魔法を初めてリーラに教えてくれたのは、母だった。
時折、突然変異で魔法力を持つ子供も誕生するが、多くは親からの遺伝によるものだ。そのため、この世界において魔法を使えるのはほんの一割程度の人間に限られている。
母はリーラが泣いていると、リーラと同じ淡紅色の光を放ちながら、花を咲かせてくれたり、小さな動物を呼んでくれたりもした。
母親の不思議な魔法の力を見るたびに、リーラはぴたりと泣き止み、笑っていたのだという。今思えば、自分と同じようにそれほど魔法力のない母親にとっては、大きな負担になっていたはずだ。けれど、そんな表情一つ見せず、母親はいつも笑っていた。
広大な大陸で最も大きな領土を持つリューベック王国の発展を支えたのは、産業技術と軍事力、そして魔法使いだった。
魔法使い、といってもそういった名称の職業があるわけではなく、魔法を使える者は一般的にそう言われている。
かつては国によっては迫害の対象となり、魔法が使えるというだけで凄惨な扱いを受けていた魔法使いだが、リューベック王国は率先して魔法を使える者を保護した。
始祖王といわれるリューベック王自身が強い魔法使いでもあったため、他国において不遇な扱いを受けていた魔法使いたちは、みなリューベックへ移住してきたのだ。
そして魔法の力で、瞬く間に領土を広げ、大国を作り上げた。
科学技術の発展とともに、以前に比べれば魔法使いの存在感は薄れつつあるが、それでもリューベックにおいて魔法使いはやはり尊敬を受ける立場にある。
その中でも王立魔法学院は、国内から集められた優秀な魔法使いの卵が数多く在籍している。
多くの魔法使いがこの伝統ある名門魔法学院にかつては在籍しており、卒業すれば、リューベック国内にいれば一生仕事に困らぬほどの地位や立場が与えられるのだ。
倍率はとても高く、魔法が使えるだけではなく、高い学力をはじめとして多くの素養が求められた。
魔法学院といっても、単純に魔法だけを教えるのではなく、むしろ魔法を中心に様々なことを学べ、資格を取ることができるからだ。それこそ卒業生には政治家や法曹家をはじめ、軍人に技術者、医師と、多種多様な職業の者がいる。
入学試験を受けられるのは十五歳の一度だけ、そしてその五年の間に、王都にある全寮制の学院で様々なことを学ぶことができる。
魔法使いの家系である貴族の子弟はこの学院に入るため、それこそ物心がついた時から専用の家庭教師がつけられるほどだった。
そのため、在籍している生徒のほとんどは王族や貴族、そして裕福な商家の子弟ばかりだった。
つまり、地方の農村出身であるリーラの存在は、学院内ではかなり浮いていた。
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