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2 二回目

 翌朝、というかもう昼近かったが、夜勤明けのお母さんが迎えに来て、侑は帰っていった。侑は昨夜のことを覚えているのかいないのか、覚えているとしてどう対応すればいいのか、お母さんに知られたら豚箱行きか、などと考えていると何もわからなくなって、健は結局何も言えなかった。    夜勤の後は休日が続くらしい。次に侑がやってきたのは、数日後の放課後のことであった。ランドセルを背負ったまま上がり込み、テーブルにノートとドリルを広げて宿題を始める。   「……侑くん?」 「今忙しいから、話しかけないで」    黙々と宿題をする。侑の鉛筆を滑らせる音と、健のキーボードを打つ音とが響く。しばらくすると侑はおもむろに立ち上がり、健の膝に無理やり入り込んで、小さな尻をちょこんと乗せた。   「ちょ……僕まだ仕事中なんだけど」 「ねー、宿題終わったの。えらい?」 「それはまぁ、えらいけど」 「じゃあ、頭撫でて。褒めて」    よしよしと頭を撫でる。髪の毛がふわふわしていて、触っていて気持ちいい。雲に触れることができたら、きっとこういう感触なのだろう。   「ねー兄ちゃん」 「なに。なでなで満足した?」 「ううん。違くて……えっと、あのね……」 「どうしたの」 「えっとね……」    やたらともじもじしている。心なしか頬が赤い。   「あの、あのね……あの、こないだのやつ、もっかいして」    健は呆然として言葉を失う。頭を撫でる手も止まる。   「あ、ねー、頭撫でててよ」 「……こないだのって……」 「ちんちんごしごしするやつ」    あの晩、終わってすぐに寝てしまっていたが、何をしたのかしっかり覚えているらしい。   「おれね、あれ好きになった」 「……い、いや、いやいや、さすがにもう、ああいうのは、さすがに、まずいでしょ……」 「ねーぇ、ごしごしして?」    侑はちらりと振り返って、物欲しそうな目で健を見上げる。勝手に手が動いた。ズボンの中へと滑り込む。   「直接触るの?」 「……嫌?」 「だって、くすぐったい……」    太さも長さも親指大のその突起は、それでもわずかに芯を持って上向いている。邪魔な陰毛はなくつるりとしていて、禍々しい血管も浮いていない。皮はもちろん被ったままであるが、これもまたつるつるぷるぷるしていて瑞々しい。全体を指先で摘まむようにして、優しく擦った。   「んぁっ、それ……それすき……」 「気持ちいい?」 「んっ、んっ……すきぃ……っ」    椅子からずり落ちてしまわないよう、小さな体を抱き寄せる。侑は健の腕にしがみついて、泣きそうな声で喘ぐ。   「……こういうこと、他の人にはさせてないよね?」 「ぁ、なに?」 「こういうの、僕以外の悪い大人とか、学校のお友達とかとはしてないよね?」 「し、しないよぉ……こ、こんなはずかしいこと、たけるにーちゃんとしか……」 「そう……他の人にさせたらだめだからね」 「うんっ、しない、しないからぁ……」    健は安心して、刺激を強めた。ひっ、と細い悲鳴のような声が上がる。   「ひぁ、あ、しゅご、ごしごしって……ごしごしすき、にいちゃっ、すき、すきぃっ」    おちんちんもさることながら、未発達の小さな陰嚢(ふぐり)も、まるで本物の玉のようにつやつやしていてハリがある。会陰部も、その奥の孔も、毛や皺がなく滑らかで、触っていて気持ちがいい。   「んぁ、え、にいちゃ、……?」    不意に、侑は戸惑ったような声を出す。   「な、なんで、そこ……おしりのあなだよ……?」    健ははっと我に返る。侑の無垢な瞳に捉えられる。どう説明したらいいのかわからない。その間にも刻々と性感は高まっていく。    突如、静寂を裂くようにチャイムが響いた。驚いて、侑はびくんと体を仰け反らせる。それが引き金となって絶頂した。健は咄嗟に侑の口を押さえる。声も出せぬまま、侑は何度か痙攣した。もう一度チャイムが鳴る。健は急いで侑をカーペットに寝かせ、その場にあったブランケットを掛ける。三度目のチャイムが鳴る前に、ようやく扉を開けることができた。   「すみません、侑がまたお邪魔しちゃってるみたいで」 「ああ、いえ、えーと……いるにはいるんですけど」 「あらやだ、寝ちゃってるんですか」 「宿題終わったら急に。疲れてたみたいで。起きたら僕が家まで送りますよ」 「本当すいません。それじゃあ、ついでにうちでごはん食べていきます?」 「いいんですか! ありがとうございます」 「ええ、一時間もあればできますから、それまでには」    などと話して、侑のお母さんはひとまず帰った。玄関の扉を閉め、鍵を掛けて、健は深く溜め息を吐く。   「はぁぁぁ……焦ったぁ……」 「そのわりにすごい手際だったけどね」 「自分でも感心してる」 「でもこれ暑い」    侑はブランケットを放り投げ、大の字に寝転がる。先ほどまでの色気が嘘のようだ。   「ちゃんとイけたの?」 「どこに?」 「すっきりできた?」 「ん……たぶん」    侑は目を閉じ、すぅと息をする。   「ねー……おれと兄ちゃんだけの秘密だね」 「……うん」 「ちゃんと守ってね」    健は侑の枕元に座り、頭を撫でた。   「えへへ、きもちー。ほんとに寝ちゃおっかな」 「いいよ。一時間したら起こしてあげる」    侑は気持ちよさそうに昼寝をした。夕ご飯はハンバーグだった。

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