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9 温泉旅行

 デパートで買い物をした帰り、侑にくじを引いてもらったら、特別賞の温泉旅行券が当たった。店員はけたたましくベルを鳴らし、侑はぴょんぴょん跳び上がって喜ぶ。家に帰ってお母さんと相談し、三人で旅行に行くことになった。   「今更ですけれど、やっぱりなんだか申し訳ないわ。他にも誰か、彼女さんとかお友達とか、一緒に行ける方がいらっしゃったんじゃないですか?」    当日朝、レンタカーに乗り込む寸前でお母さんが言う。   「侑が当てたっていっても、清水さんのお買い物で当たったものだし……」 「でも侑くんの運が強いから当たっただけで、僕が引いたらどうせティッシュとかでしたから」 「そうだよ母さん、気にすることないよ。それに兄ちゃんに彼女なんていないし。モテなくてかわいそーなんだよ」 「こら、失礼言わないの」 「でもほんとのことだもん。ねー、兄ちゃん」    健は笑ってお茶を濁す。実際彼女はいないし、彼女がいたら頻繁に侑を家に上げたりしないし、旅行に誘える友達もいないのだから仕方ない。    健の運転で出発した。お母さんは後部座席、侑は助手席に乗る。当初はお母さんが助手席に座るはずだったが、侑がどうしてもとごねるのでこの席順になった。侑はスマホをカーナビに繋いで音楽を流し、窓を開けて歌を歌う。あそこにパン屋さんがあるとか、ラーメン屋さんがあるとか、犬の散歩をしてる人がいるとか、いちいち報告してくれた。    高速道路に乗って初めのうちは、山があるとか川があるとか、何々というサービスエリアがあるとか、色々報告してくれたのだが、代わり映えのしない景色に飽きてしまったのか、そのうち眠ってしまった。    休憩も含めて三時間ちょっとで、温泉地に辿り着く。観光地を巡ってから旅館にチェックインし、食事の前に温泉に入り、食後は部屋でのんびり過ごした。弱いくせにお酒が好きらしいお母さんは、夕食時の飲酒ですっかり酔っ払ってしまい、すぐにいびきを掻き始めた。    侑も布団でごろごろしながら、暇そうにテレビのリモコンを弄る。足をぱたぱたするせいで浴衣の裾が捲れ、もちもちとした太腿が剥き出しになる。   「ねー、にーちゃぁん。もっかいお風呂行こうよ」 「こんな時間にやってるの?」 「やってるって書いてあった。ねー、行こうよぉ。今ならきっと空いててお得だよ」    健は特別風呂が好きというわけではない。ないが、侑が行きたいと言うなら付き合おう。お母さんを起こさないよう、静かに部屋を出る。    露天風呂は中庭の向こうにあり、時間帯もあってか貸切状態だった。夜風が涼しく、半身浴ならばいつまででも入っていられる。侑は、大人しく肩まで浸かったかと思えば、浴槽の縁に腰掛けてバタ足をしたり、水飛沫を上げて泳いでみたり、坪庭の植物に水やりしたりと、子供なりの楽しみ方をしている。   「誰か来たら静かにしてね」    とは言ったが、誰も来る気配はない。どんどん夜が更けていく。   「ねー兄ちゃん、月がきれいだね」    すす、と侑が隣に寄ってきて言った。中天に月が掛かっている。   「ああ、大きい満月だね。うさぎが餅つきしてる」 「違うよぉ、そんなこと言ったんじゃないよ」    侑はむぅと頬を膨らませる。   「月がきれいだねって言ったの。知らないの?」 「……夏目漱石が言ったってやつ?」 「? それは知んないけど。月がきれいって、好きですって意味なんでしょ。だから……」    自分で言った言葉に赤面する。   「だ、だから……ほんとは月なんかどうでもいいんだよ。にーちゃんに、好きって言いたかったの」 「……そういうのは、あんまり軽々しく言うもんじゃ……」 「ねー、ちゅーしよ」    目を瞑り、唇を突き出す。この顔を拝むのも何度目だろうか。一応辺りを確認して、唇を重ねた。侑が舌を出してくるが、拒んで口を離す。侑は不満そうに鼻を鳴らす。   「前したやつ、もうしてくんないの?」 「……ああいうのは、もうしないよ」 「なんで」 「なんでもだってもないの。侑にはまだ早い」 「でもぉ……」    侑はちらりと視線を下に向けたかと思うと、健の急所をむんずと掴んだ。片手では足りないから、両手で。驚いて腰が引ける。   「ちょっ、何、そんなとこ触るもんじゃないって」 「でもにーちゃんはおれの触るじゃん」 「そ、それはいいんだよ」 「なんで。ずるい。おれもにーちゃんのちんちん触る」    紅葉のように小さな、すべすべの手に握られて、恥ずかしいほど呆気なく勃起した。侑はごくりと喉を鳴らし、目を真ん丸に開いて凝視する。見られてさらに大きくなる。   「な、なにこれ……かたい……」 「も……わかったら放して」 「や、やだ。もっとちゃんと触るの!」    威勢よく言ったもののどうしたらいいのかわからないらしく、ただ両手で竿を握って軽く揉むだけである。ただそれだけでも気持ちよく、また一回り大きくなってしまう。   「ま、またおっきく……かたい……」 「はぁ、もう……ほんとやばいから……」 「に、にーちゃんも、ちんちん変になるんだね」 「そりゃなるよ……」 「で、でも、おれのと全然違う……お、おっきいし、かたいし、毛がざりざりして……な、なんかぬるぬるしてきた……」    まずい。先走った。水中でもわかるくらい濡れているなんて。健は頭を抱える。   「えと、これ……あっそうだ、ごしごししたらいいの?」 「しなくていい……」 「で、でも、ごしごししたら、きもちよく? なるんでしょ? おれ、にーちゃんにもきもちよくなってほしいから。いっつもおれだけごしごししてもらってるから……」 「そんなの、気にしなくていいって……」 「でもおれ、ちゃんとできるんだよ。前ににーちゃんに教えてもらったから……」    夏休み、電話越しに自慰のやり方を教えた。あれが今頃になってこんな形で実を結ぶことになるとは。全く望んでなどいなかったが。しかし侑は妙なところで覚えがいい。健の教えた通り、濡れた亀頭をくりくり擦る。思わず声が漏れる。侑は嬉しそうに顔を綻ばす。   「にーちゃ、きもちい? きもちいいの? おれ、ちゃんとできてる?」 「できてるから……ほんともう、やばい……」 「ほんと? おれ、きもちい? すき?」    その言い方には語弊がある。しかし性感を煽るのには十分すぎた。健は侑を抱き上げ、膝に乗せて跨らせる。熱く濡れた肌が直接触れ合う。   「……もっと、強く握ってみて」 「へ? あ、もっと?」 「うん。ぎゅうってして」    侑の握力は、健のそれと比べて弱い。しかし両手で強く握りしめれば、それなりの圧迫感になる。   「い、いいの? 痛くない?」 「全然。だって僕の硬いでしょ。侑の手より硬いよ」 「そ、そうかな」 「そうだよ。侑の手、ちっちゃくて、柔らかくて、気持ちいい……」    抱きしめ、耳元で囁く。侑はびくびくっと腰を反らす。   「ま、まって……なんかへん、おれ……」    手が疎かになり、健の胸に頬をくっつける。   「に、にいちゃんの、してあげたいのに……こ、こうしてると、なんか、ぞくぞくってしてきて……」    見れば、つるりとしたおちんちんが起立して震えている。   「気持ちよくなってきちゃった?」 「だ、だって……にいちゃんのこういうの、はじめてみるから……なんか、すごくどきどきするし……ちんちん、むずむずする……」    熱を孕んだ眼差しで健を見上げる。   「じゃあ、一緒に気持ちよくなろうか」    侑を膝に抱いたまま、お湯から上がって浴槽の縁に腰掛けた。濡れた肌が密着する。下腹部まで、ぴったり密着する。熱く猛ったものを、侑の親指大の突起に擦り付ける。邪魔するものは何もない。背徳感を上回る興奮が押し寄せる。   「ぁ、お、おとなのちんちん……」 「二つ一緒に握ってみて」    侑は小さな両手で輪っかを作り、健のものと自分のものとをまとめて握りしめる。健は侑をしっかりと抱き寄せ、頭を撫で、頬や首筋に舌を這わせる。甘じょっぱい。   「ゃ……に、にぃちゃ、これ……これ、へんだよぉ……」 「気持ちいいって言うの。教えたでしょ」 「で、でも……にぃちゃんのちんちん、ごつごつしてて……か、かたくって、ふとくってぇ……っ」 「これが大人の、なんだよ。侑のは、ちっちゃくて、ぷにぷにで……かわいいね」    思わず笑みが零れた。侑は茹だったように真っ赤になって、額をぐりぐり押し付ける。   「ば、ばかばか、にいちゃんのばか……ちんちんかわいいとか、いみわかんないし……」 「でも、かわいいよ。侑がかわいいことばっかりするから、僕は……」    局所を握りしめる侑の両手に右手を重ね、強めに扱く。ひっ、とか細い悲鳴が上がる。   「ひぁ、や、まって、まっ、にぃちゃ……」 「ごめん、もうかなり待った」    情けない。この歳になってここまで余裕を失うなんて。まるで十代、童貞に戻ってしまったみたいだ。    侑のあどけない声が裏返り、星の瞬く夜空に響く。月影が水面に落ち、動く度波に揺れる。濡れた肌が照らされて、昼間の様子からは想像できないほど艶めかしい。   「だめ、だめだよぉ……にぃちゃぁ、だめぇ、きもちぃよぉっ……」 「うん、ごめん……侑がかわいいから……待てなくなっちゃった」 「やぅぅ……に、にぃちゃのちんちん、きもちいぃ……っ」 「っ……そういうこと言うと余計に……」    情けない。恥ずかしい。同時に少し悔しい。こんなにも幼い子供に、二次性徴も迎えていない未熟な体に、どうしてこういとも容易く煽られ、興奮して、息を荒くしているのか。しかしそんなことを考えていても止まれない。頂上は見えている。   「あぁぅ、やっ、もうらめ、にぃちゃ、ッ……ぅ、くる、きちゃう、すき、にぃひゃ、しゅきぃ……っ」 「ん……僕も、だから……もすこし……」    侑の頭を掴んで引き寄せ、キスをした。上から押さえ込むようにして、舌の裏側までぬるりと入り込む。   「ひぅ……く――んぅぅ゛っっ!!」    侑は小さな体を激しく震わせる。健もほとんど同時に上り詰めた。溜め込んでいた精液がいきり立ったものの先端から勢いよく飛び出し、為す術ないまま侑の胸元に飛び散った。    しばらく、キスをしたまま抱き合っていた。リズムの狂った鼓動を元に戻したかった。そろそろ落ち着いたかと思い体を離すと、侑はふらふらと後ろに倒れて風呂に落ちそうになるので、慌てて抱き上げて再び抱きしめる。   「ごめん。苦しかった?」 「ううん……」    侑はぼんやりとおぼろげな表情で健を見上げる。見れば、顎の辺りまで白濁が飛んでいる。恥ずかしいやら昂るやら、しかし申し訳なさが勝った。とりあえず手で拭う。   「……なに?」 「ごめん、飛んじゃって」 「……せーし?」 「……そうだよ」    気まずい。侑はまだぼんやりとして、頭にクエスチョンマークを浮かべている。この隙に綺麗にしてしまおう。   「……にーちゃんは、せーし、でるのか……」 「……出るよ。大人だからね」 「おれは、でない……」 「あと三、四年もすれば出るよ」 「これって、赤ちゃんのもと、なんだよね?」 「……そうだよ」    保健体育で習ったのか。最近の性教育は進んでいる。   「じゃあこれ、にーちゃんの赤ちゃんになるの?」 「まぁ、そうなるのかな。相手がいないとできないけど……」 「舐めたりしたら、赤ちゃんできる?」 「まさか」    侑は健の手を取って、指先についた精液を舐めた。赤い小さな舌に、まだ生温い白濁が絡め取られる。短い舌が口の中に隠れ、唇が閉じる。や否や、侑は一瞬にして顔をくしゃくしゃに歪め、たった今口に含んだものをぺっぺっと吐き出した。   「うぇぇっ、すっごい変な味がするぅ」    この反応はさすがに悲しい。いや、至って普通の反応なのだが、少し期待してしまった。   「苦いし、なんか草みたい。やだぁ、こんなのがほんとに赤ちゃんになるの?」 「なるんだよ。侑も将来、同じようなのを出すことになるんだよ」 「えーっ、やだぁ。おれ、もっとおいしいやつがいい」 「おいしいも何も……食べ物じゃないんだから」 「でもおいしい方がいいじゃん。そんでにーちゃんに食べてもらうの」    すっかり回復したらしい侑は健の膝を離れ、自分で掛け湯をして体を洗い流す。   「もー、なんか暑いよ」 「出ようか」 「うん。ねー、帰りにアイス買って」 「こんな時間にだめでしょ」 「いいの。母さんには内緒にしてね」    全く調子のいいやつだ。すっきりした横顔が小憎らしいような、でもやっぱり愛らしいような。浴衣は健が着せてやり、アイスも結局買ってしまった。

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