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第2話

 小鳥遊くんと付き合って一か月が経った。気温がちょうどいい時期から、肌寒く変化している。その間に、おれたちが何も変わらないかと思えばそうでもない。  例えば、小鳥遊くんが髪の毛を切ったことだ。耳が出るところまで切って、切長な目も惜しげもなく見えるような長さ。マッシュウルフと呼ばれる髪型だ。  あとは、当たり前だけどおれが色んな人とセックスできないこと。これは小鳥遊くんと約束させられた。前に変な男に絡まれていたところを助けてもらっているし。  ただ、暇な夜は大抵誰かと過ごしていた身としては、物足りない。体の熱が奥に溜まっていく気がする。まだ小鳥遊くんとは、セックスはしたことなかった。そもそも、高校生とするのは良くないだろう。 「先生って、経験人数どれくらいなんですか?」  家庭教師をしている時の休憩中にそんなことを聞かれた。思わずコーヒーをむせそうになる。なんとかコーヒーを飲み込んでから、隣に座る彼の方を見る。惜しげもなく晒されている綺麗な顔にドキリとした。 「……聞いてどうすんの?」 「どんくらいビッチだったか知っとこうかと」  ビッチであることは間違いじゃないので、何も言えない。それでどうなのかと答えを促される。 「……数えてない」  正直、何人かなんて覚えてない。人数なんて、両手の数を超えたら数えるのをやめた。 「へー」  小鳥遊くんは予想していた答えの範囲だったのか、そう答えた。小鳥遊くん自身はバイだという話はきいた。経験人数は聞いたことないが。  小鳥遊くんの綺麗な指がマグカップの取手をつかむ。薄い唇にマグカップの縁が当たると、コーヒーがそこから流されていく。口元のほくろも相まって、エロいと思うのはおれがたまってるからだろうか。 「……そんなに見つめられると、飲みづらいんすけど」 「っごめん」  そう言われてパッと視線を逸らす。教え子に欲情するなんてどうかしてる。小鳥遊くんが喉を鳴らして笑った。 「先生、明日夜空いてますか?」 「空いてるけど……」 「デートしません?」  そう言って、綺麗な顔でおれの顔を覗き込んできた。 ――――――――――――――――――  大学が終わって、待ち合わせの駅に向かう。同級生に飲みに行かないかと誘われたけど断った。大抵断らないおれが断ったことに、野次が飛んだけど笑ってかわした。  金曜の夕方で、仕事終わりの人もいてざわざわとしている。飲みに行く人も多いだろう。日が暮れると寒くなってきて、みんな薄手のコートを羽織っている。待ち合わせの時間までにちょっと時間があった。小鳥遊くんは制服から着替えてからくるから、さすがにおれより時間がかかる。  駅前についてることと、喫煙所に行ってるということをメッセージで送る。喫煙所も減ってしまったなぁ、と思いながら紙巻タバコに火をつける。電子タバコは吸ったことあるけど、従来のタバコの方が好きだ。  一本吸い終わる頃に、駅に着いたメッセージがくる。高校生に喫煙所に来させるのは良くないだろうと思って、改札の方に向かう。 「あ、先生」  改札の方へ向かってる途中で、小鳥遊くんと落ち合えた。 「木藤先生タバコ吸うんすね」 「そこまで吸わないけどね。人から勧められて吸い始めただけだし」  一日で四本とかだ。そんなにタバコ自体も重いものでもない。 「なんか……先生の顔でタバコ吸ってんの、ヤバいっすね」  この前も似たようなことを言われたなぁ、とか思った。俺は童顔だから似合わないとかどうとか。おれ自身はそんなこと考えたことなくて、勧められてからなんとなくだらだら吸い続けている。 「たしかに、似合わないとはよく言われる」 「いや、そうしゃなくて」  ただ小鳥遊くんのヤバイはおれが思ってた意味じゃないらしい。不思議に思ってると、おれの耳元に口を寄せた。 「……エロいなって」 「……は?」  今までにない感想で、変な声が出た。小鳥遊くんは悪戯が成功したみたいに笑った。その表情をみて、からかわれたと思った。 「からかうなよ」 「本気ですよ。でも続けて欲しいとも思いませんけど、タバコ」  健康に悪いし、と真っ当なことを言われる。肩をすくめて、どこに行くつもりか尋ねた。 「水族館、行きましょう」  そう言って、紙のチケットを差し出してきた。ここの駅の近くにある水族館のものだ。話を聞くと、父親が会社で頂いたものらしい。 「そうなんだ。お礼伝えといてね」 「たぶん何も考えずに渡してますけど、いっときますね」   じゃあ向かいましょうと笑う顔は年相応に見えた。  都内にある水族館なので、規模は小さめだと思う。ただ、中にショーができるところがあって座れて観れるので、デートには最適な場所なんだろう。金曜なのもあって、カップルがたくさんいた。小鳥遊くんが持っていたチケットで入場する。  水族館は薄暗くて、水槽が綺麗に照らされている。最初は小さめの水槽が続いていて、混雑してる中順番に見て回る。何種類もの小さい魚やくらげが、それぞれの水槽でライトアップされている。  途中でするりと小鳥遊くんの指が、おれの指に触れた。驚いて顔を見ると、人差し指を口に当ててしーっとされる。確かに、何も言わなきゃこの混雑なら誰も気づかないだろうけど。  そのまま子供の手の繋ぎ方で、水族館を回る。なぜかこんな繋ぎ方で動揺している自分がいた。  小さな水槽のゾーンが終わって、大きい水槽のところへでた。広場みたいにひらけていて、人数も少しまばらだ。すっとおれは手を離した。小鳥遊くんは何も言わなかった。  大きい水槽ではマンタやサメなど大きい魚や、魚群を作る魚が泳いでいる。魚の群れを目で追っていくと、大きい魚を避けたりしていて、面白いなと思った。 「ショー、あるみたいですけど見ます?」  ぼーっと魚を見ていたら、小鳥遊くんから声がかかった。ショーとか全然何も考えてなかったけど、せっかく来たし見ようか、と返事をする。    ショーを行うステージのところへ向かった。真ん中のプールを中心に、ベンチ状の椅子が階段状に上がっていく。混雑しているのもあって、係員に案内されるまま座る。端の方ではあるけど、たぶんどこでも楽しめるだろう。 「ごめん、狭くない?」 「大丈夫っす」  男二人が詰めると足が当たる距離になってしまう。ましてや小鳥遊くんは太ってはいないけど、身長がある分横幅は狭くはない。 「むしろ、役得ですし」 「何言ってんの」  ははと笑って返すと、小鳥遊くんが不服そうな顔をした。そのまま諦めたようにため息を吐かれる。 「なんだよ?」 「いや、道のりは遠いかなって」  どういう意味かきこうと口を開くタイミングで、開演のブザーがなった。ふっと照明が暗くなる。プールのような水槽とその周りのステージだけ照らされた。  そのタイミングで、また小鳥遊くんがおれの手を握ってきて。  暗いし、見えないかと思ってそのままにする。自分の心臓の音は無視する。別に、音は大きくなってなんかない。たぶん。  ショーは面白かった。イルカやアシカがボールやフラフープを使って芸をするのは可愛いと感じた。ショーが終わって灯りがつく前に小鳥遊くんの手は離れていった。別にそれが寂しいとは、感じていない。  ざわざわと周りが席を立ってでていく。おれたちも立ち上がった。 「一通り中って見たっけ?」 「見たはずです。……あ」  何かに気づいたようで小鳥遊くんが声を上げる。なんだろうと思っておれは彼の顔を見るけどなんでもないです、と誤魔化された。 「いや、なんでもないわけないでしょ。なんか見てないのあった?」 「……なんでもないです」  絶対にうそだな。  そう思ってじーっと見つめると、観念したようにボソリと言った。 「……お土産屋さん、みてないと思っただけです」  思いの外、可愛らしいもので思わず笑ってしまう。小鳥遊くんが罰が悪そうな顔をした。笑いすぎると拗ねてしまいそうなので堪える。 「なんか買いたいものあるの?」 「……キーホルダーとか、一緒に買いたいとか思っただけです」  その発言はずるいな、と思った。可愛いとは普段思えない背格好と声なのに、可愛らしく感じる。 「じゃあ見にいこっか」 「……ガキっぽいとか思わないんすか」 「いや? そうだとしても、まだ高校生だしね」  そういうと複雑そうな顔をされる。高校生って子供扱いも大人扱いもされる時期だったな、と思った。特に彼は見た目も相まって、妙に大人扱いされてそうだ。たまに見せる子供っぽさは馬鹿にされやすいのかもしれない。  土産のコーナーに行って、とりあえず一通り回る。可愛らしいぬいぐるみや、シャーペンやノートとかもあった。順番に見て回っていくと、キーホルダーのコーナーに当たる。ぬいぐるみ付きの子供向けのものは流石にな、と思った。かわいいけど、たぶん彼が思ってるのはこれじゃないだろう。 「先生、これとかどうですか」  小鳥遊くんが指差したのは、アシカのシルエットの銀色のキーホルダー。絵が描かれてなくて、シルエットのみだから使いやすそうだ。 「うん、いいと思う」  そう言って、二つ手にとる。会計どこだっけ、と探す。 「いや、先生俺も払います」 「いいよ、さすがに高校生に払わせられないよ」  そう言うと、小鳥遊くんが困った顔をした。そもそもこのチケットだって、小鳥遊くん……正確には小鳥遊くんのお父さんだけど、用意してくれたものだし。 「今のうちだけだから、甘えときなよ」  否が応でも、あと数年で二十を超える彼にそう言った。そう言うと、少し迷った末に頭を下げられる。別に大した額でもないんだけどね。  会計を済ませて、外に出た。二人で歩きながら、駅まで向かう。 「駅前でご飯食べよっか」  それで今日は解散かな、と考える。正直、健全なデートなんて久しぶりだ。  そんな気持ちで駅前の適当なお店に入る。チェーンのパスタのお店だ。各々好きなパスタを決めて、注文した。あんまり来ないチェーン店だったから、頼んだあともメニュー表をめくって見ていた。 「……先生」 「んー?」 「今日、おれ、先生の家に押しかけるつもりなんですけど」  小鳥遊くんのその言葉に、パラパラとメニューを見ていた手を止める。 「……え、と、おれんち?」 「ダメですか?」  聞き間違いかと思ったけど、そうじゃなかったらしい。動揺して視線を泳がしてしまう。じっと切長な目がおれを見つめる。捕食者の目だった。ぞくり、と久しぶりの感覚が背中を走る。思わず了承してしまいそうになるけど、小鳥遊くんは高校生だと思って理性がストップをかけた。  そんなおれの様子に小鳥遊くんは目を細めて笑った。 「でも、先生に拒否権ないんですけど」 「は、」 「先生、俺たちが付き合ってる理由覚えてますよね?」  そう言われて、ぐっと言葉が詰まった。おれの家庭教師の会社におれがゲイだということを言わないでくれ、とお願いをしていたのだ。 「だから、先生には選ぶ権利ないですよ」  そう低く甘い声で言われた。  正直、その後のご飯の味は覚えていない。小鳥遊くんは言葉通りおれの家についてきた。 「お邪魔します」  小鳥遊くんがおれの家に上がった。おれの家、と言っても賃貸の普通のワンルームだ。  荷物を置いて座る間もなく、小鳥遊くんに話しかけられる。 「先生んち、バストイレ別ですか?」 「別だけど……?」 「じゃあ、俺が準備してもいいですか」  する、と腰に手を回されて体がビクつく。そう提案の言葉の形を取るのに、おれに拒否権はないんだろう。 「……お風呂ためちゃだめ?」 「いいすよ」  正直言うと、なんでもいいから少し時間稼ぎをしたかった。初対面の人とセックスは何回もしてるのに、今の方が緊張している。その理由は自分でもわかっている。  小鳥遊くんから逃げるようにして風呂場に行ってお湯をためはじめる。これでたった十分程度だけど、時間が稼げるはず。  そう思って、浴室からでる。小鳥遊くんが座って待っていた。手招きされて、近づく。 「う、わ」  腕を引っ張られて、あぐらをかいている小鳥遊くんの上に乗せられる。大人しく足をまたぐように座った。 「木藤先生、気づいてます?」 「なに、に」 「ずっとエロい顔してますよ」  そう言って、小鳥遊くんの手がおれの頬を撫でる。それは、そうかもしれない。緊張もしているけど、久しぶりにセックスできるかもしれないと、この体はそわそわしていた。  頬を撫でていた手のひらが、そのままおれの頭の後ろに移動する。そのままぐいと力を込められて、小鳥遊くんの唇に近づけられた。柔らかい感触がする。優しく啄むようにキスを何回もされた。  は、と口で呼吸をするのに開いたら、その隙に舌が捩じ込まれる。柔らかくて温かい感触に、体をぴくりと揺らしてしまう。入ってきた舌に自分の舌を絡ませるようにして、快楽を享受した。  キスが終わると、そのまま小鳥遊くんがおれの首に唇を這わした。唇の柔らかい感触と、息の流れがくすぐったいような快感を与えてくる。 「先生、やっぱりタバコやめません?」 「ん……っ、なんで……」 「タバコの匂いついてるの、なんかムカつくんで」  よくわからない。エロいと言ったりムカつくと言ったりなんだこの子は。 「先生が吸ってる姿は見てないけど、たぶんエロいっすよ」 「何言ってんだか……あッ」  首筋に生暖かい感触がして、声を上げる。そのまま、そこに優しく歯を立てられて、痛い。 「い、たいって、ば……」 「先生ならたぶん、大丈夫」  なにが大丈夫なのかはわからない。ただ、与えられるものに頭がくらくらする。  そうやって快楽に流されてると、ピロン、と軽快な電子メロディが流れた。 「風呂、わいたみたいなんで行きましょうか」  ちゅ、とまた唇にキスをしてからそう言われた。  ワンルームの風呂場で男二人なんて狭い。小鳥遊くんの足の間に入って後ろから抱えられる形だけど、本当にぎりぎりだ。完全に密着してるし、おれは足を伸ばせてない。 「先生、細すぎじゃないっすか?」 お腹に回っていた手が、お風呂の中でさわさわとなでる。その感触に、体がぴくりと動いてしまった。ちゃぷんとお湯がはねる。 「っ、標準体重だよ」 「その薄さで標準に入るんすか」  そう呟かれる。標準体重なのは本当だ。下限ギリギリではあるけど。  小鳥遊くんの唇がうなじに触れた。唇から生暖かくて、柔い感触に変わって舐められるとわかった。 「ん……は、ぁ……ンンンッ」  お腹にあった手が、いつ間にか胸に移動していた。両方をつままれ、体がのけぞる。つままれたま、指の腹で乳首の先端をすりすりされる。ぴりぴりとした快感が背中を走った。 「先生、かわいい……」 「ぅあ……かわいくなんて、なっ……あッ」  小鳥遊くんの言葉を否定すると、まるで口答えするなというかのようにうなじを噛まれた。痛い。痛いけど、胸の快感とあわさって、気持ちいいのかわからない。 「先生はかわいいんです」  そう後ろから耳元で囁かれる。痛いことをしてくるのに、低い声はいつも甘い。 「後ろ触りたいんで、立ってもらえますか?」  そう言われて、立ち上がる。反応しているモノも全て見えてしまって恥ずかしい。浴槽から出て、シャワーの近くに立つ。小鳥遊くんが後ろに立つのがわかって、これからされることに不安と期待に心が変になりそうだ。 「小鳥遊くんは、その……人のしたことある?」 「何回かだけ。だから痛かったりしたら、遠慮なく教えてください」  おれの家にあったローションを指につけて、小鳥遊くんが後ろに触れる。優しくマッサージするような触れ方に、痛くはならないだろうとほっとした。無理矢理突っ込む奴は、この時点で乱暴なことが多いから。  しばらくそうやって触ったあと、つぷ、と指先が入ってくる。ゆっくりと入ってくる久しぶりの感触に、ぞわぞわした。 「痛くないですか?」 「だ、いじょうぶ……」  おれのその言葉を聞いてから、ゆっくりと抜き差しされる。中を少しずつ広げるように動かされたあと、二本目が入ってきた。  二本になってから、指の動きが何かを探すような、そんな動きに変わった。深呼吸しながら、探し当てられるのを待つ。 「……あッ」  指がちゃんとしこりに当てられて、声が漏れた。小鳥遊くんもそれに気づいて、そこを擦るように指を抜き差しする。 「ひ、ァッ……ん、あっ……」  教え子に後ろをいじられて、感じていることに背徳感を感じる。それなのに、体は素直にビクビクと反応してしまっていた。 「先生、気持ちいい?」 「い、あッ、きかないで……んっ」 「やだ。教えて、センセ?」  小鳥遊くんの指が、気持ちいいところをぐりぐりと押してきて。目の前が真っ白になった。 「やっ、それ、ダメ……! あぁアッ!」 「先生がちゃんと答えてくれるなら止めます」 「あっ、気持ちい、きもちいいからァ……っ、やめて、おねが……ひッぁあアあっ」  ちゃんと気持ちいい、って伝えたのに、むしろ指を激しくされた。気持ちよさが頭を駆け抜けてチカチカと星が飛ぶような感覚がした。体が勝手にこわばって、指を締め付ける。  はー、はー、と必死に息を吸う。指がずるりと抜かれた。 「先生」  顎をつかまれて、後ろにむりやり向かされる。唇を優しく塞がれた。久しぶりのドライでイッたばかりで、頭がぼーっとしていた。  ……だから、小鳥遊くんが何をしようとしてたかなんて、見てなくて。 「……えっ、あぁアっ!?」  後ろに熱いモノがあてがわれて、まずいと理性が戻った瞬間には穿たれてしまっていた。 「ひ、あっ、たかなし、く……ッ」 「ごめん、先生」  我慢できなかった、と耳元で囁かれる。低い声がおれの理性も全て溶かしていく。  小鳥遊くんの体が、おれに覆いかぶさるようになった状態で犯される。先程触ってたしこりもゆるゆると突かれて、高い声が漏れた。 「あっアァ……ッ、んっ」 「声、えろ……」 「んっ、ァ、たかなし、くんの方がそうだってば……」  絶対、小鳥遊くんの声の方がえろい。掠れたその低い声で囁かれると、体が反応してしまう。 「いっ、アァあっ!」  小鳥遊くんが急に腰をつかんで、ガツガツと打ち付けてきた。 「なん、でッ……動くの我慢してるのに……煽るんすか……!」  余裕のない声と腰の動きに、この子が高校生だったことを思い出す。激しい動きで気持ちいいところに当たって、足がガクガク震えた。 「ア、ぁあっッ、ひ……っ、むり、はげし……っ!」  ひたすら喘いでいると、小鳥遊くんの手が前の方にきて、おれのモノに触れた。そのまま、上下に擦られる。与えられる快感に、身を委ねた。小鳥遊くんが吐息混じりにおれを呼ぶ。 「っは、ぁ……木藤センセ……」  好きです。  なんて、耳元で言われて。  その甘い言葉も快感に変換されてしまう。 「いく、イッちゃ、あアァぁあッ」  後ろも気持ちいいところを突かれながら、精を放つ。壁に白濁の液がぱたたっとかかった。そのタイミングで、自分の中にもドクドクと熱いものが注がれる。後ろからぎゅっと抱きしめられた。 「ひ、あっ、生は……だめなのに……!」  イッたばかりで、喘いでるような声がでた。そんな声で抗議したって意味はないんだろうな、と思いつつ言う。 「ごめ、先生……かきだすから、まって……」  小鳥遊くんが謝ってくる。彼もイッたばかりで、息が上がっていた。痛いほど抱きしめられて、身動きが取れない。  しばらくして、体が離れる。ずるり、と萎えたモノが抜かれて、んっと声が漏れてしまった。つうっと後ろから垂れる感覚がする。 「……先生、俺がすると、またダメかもしれない……」  小鳥遊くんが欲情の混じった声をだす。振り向いて彼の顔を見ると、黒い瞳が理性と色欲の間で揺れていた。  彼の首に手を回して、口元のほくろに唇を寄せた。そのままの距離で言葉を紡ぐ。彼のことよりも己の欲を優先させて。 「次は、ベッドで、ね?」   ――――――――――――――――  カーテンから漏れる光で、目が覚めた。瞬きを繰り返す。目の前に他人の胸元が見えた。視線をずらすと、すーすーと寝息を立てている小鳥遊くんの顔が見える。明るさ的に日が結構昇っているだろうと思って時計を見ると、十時を過ぎたあたりだった。  じんわりと染み込んでいる腰の痛みに、おもわず声が漏れる。高校生の体力を舐めていた。まさか明け方までするとは思ってなかった。確かに、あの頃の時期は性欲の溜まり方が異常だった覚えがある。  一人用のベッドで、密着にして抱きかかえられていたため、そっと腕を外す。起こさないように足音を静かにして、電子ケトルでお湯を沸かした。二つマグカップを用意して、片方にだけティーバッグを入れておく。  ベッドが軋む音がして、そちらを見る。小鳥遊くんが体を起こしていた。ただ、眠いのか頭がぐらぐら動いている。その様子が可愛いと思いながら、彼用のマグカップにもティーバッグを入れて、沸いたお湯を注いだ。 「おはよ」  マグカップを渡しながら声をかける。自分の声がかさついてて、少し咳払いをした。 「先生、声が……すみません」  小鳥遊くんが申し訳なさそうに謝る。さっきまでおれの体を好き勝手にしていた姿と逆に思わず笑ってしまった。  ベッドの近くに座って、紅茶に口をつけて喉を潤した。ほっと息をつく。 「……木藤先生」 「んー?」 「好きです」 「趣味が悪いね、小鳥遊くん」  セックス中にも何回も言われた言葉。それに対し、そう返す。  おれも、とは言えなかった。 「悪くないです」 「悪いよ。わざわざ年上のビッチ選ぶのは」  小鳥遊くんの顔も見ず、答えた。  「ホント、趣味悪い」  好きでもない高校生の教え子に抱かれて悦ぶ自分を笑った。 「……それを言うと、俺もヤリチン言われたことあるんで、何も言えないんですけど」 「あー……」  確かに、高校生にしては手慣れてるから、そう言われてしまうかもしれない。 「何人したことあるの?」 「付き合ったのは八人くらいで、経験したのは五人すね」  高校生だと多い方だけど、彼の見た目からすると少ない気がする。ただ学校という狭いコミュニティだとそう言われるか、と納得した。 「先生は付き合った人数はどれくらいなんすか?」  そういえば聞いてなかった、と言われた質問に苦い物を感じる。経験人数は、数えてないほどだけど。 「……小鳥遊くんが二人目、だよ」  一人目の、おれにセックスもタバコも教えた姿が頭の中で思い浮かぶ。まだ笑顔がはっきりと思い出せてしまって、馬鹿だなぁと思った。 「……え?」 「小鳥遊くんが二人目。だから、元カレは一人だけ」  聞き返してきた小鳥遊くんの声に、丁寧に言い換えて答える。動揺しているのが伝わって、彼の顔を見た。切長の瞳が揺れている。 「……その人のことは、ちゃんと好きだったんですか」 「うん」  おれの答えに小鳥遊くんの顔が歪んだ。 「……ごめんね」  おれのなんの慰めにもならない言葉が部屋に響いた。手元にある紅茶に口をつける。温かったそれかま温くなっているのを感じた。

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