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第21話

 昨日、朝方まで福嶋に寝かせて貰えなかったせいでだるい身体のままぎりぎりに出社した。同じくらい体力を使っているはずの恋人は飄々と一時間前に出社した。本人の言葉通りタフな人だ。  チーフにあたふた『佐高くん』と呼び止められ、嫌な予感がする。 「君に移動の内示だよ。行き先は…」 「私の改革チーム専属秘書です」  チーフの後ろには一時間前に別れたばかりの福嶋が仕事モードで立っていた。 「今度は内容も詳細に伝えますので、容赦なく働いてもらいますよ、了。さあ支度支度」  了は頭を抱えたくなった。  福嶋に急かされ荷物を慌ただしく詰めたらエレベーターに乗り込む。二人きりなのを良いことに福嶋を睨んだ。 「また意地悪で内緒にしてましたね、僕の移動。朝出るとき言ってくれればよかったのにっ」 「意地悪なんてとんでもない。了を驚かせたかったんですよ。仕事中も仕事が終わっても一緒にいられるなんてこんな幸せなことないでしょう?」 「僕が昨日あなたの告白をお断りしてたらどうしてたんですか?」 「その場合を想定して、何が何でも了を落とすために再度そばに配置したんですよ」 「やっぱり、めちゃくちゃ公私混同してますね?」 「今回ばかりは自認しましょう」  全然悪びれない上司は、屈んでこっそり口封じのキスをする。ふてくされながら、やっぱり甘い気持ちで了はつかの間目を閉じた。

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