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第20話(※18禁)

「ゆ、夢みたいです…」  福嶋は「可愛い」とつぶやいた。  かと思うとすぐソファに乗って、ゆるく押し倒しながら了の上半身に体重を掛けた。今度は歯列から下を入れられ、深く吸われる。舌を奥に潜らされるほど酔ったみたいに身体が火照り、頭がぼんやりした。  福嶋が自分で着ていたシャツを一気に脱いだ。スーツを纏っている時は細身なのかなと思っていたのだけれど、現れた上半身は筋肉がしなやかで腹筋もはっきり割れている。  着痩せするタイプだったようだ。そんなことにもいちいちドキドキしてしまう。  福嶋がやたら自分を撮っていたのは観賞用だと打ち明けられたばかりだが、この肉体は確かに写真に収めて家でこっそり反芻したさがある。今ならば福嶋の心情がわかる気がした。 「ふ、福嶋さん…なにを…しようとしてます?」 「了が想像してる通りです」 「ちょっと、ま、待ってください」 「嫌ですか? 今自分を押さえられそうにないんですが、…了が嫌ならちゃんとやめます」 「そうじゃなくて…こ、コリーノが…見てます」  窓際に並んだぬいぐるみたちに視線をやる。 「ベッドに、行きますから…やめないでくれませんか」 「うん」  さも嬉しそうに無邪気に福嶋が破顔して、接待の夜を思い出した。あの日も完璧な上司のこんな風に作られた無防備な顔を不意に見て恋に落ちたのだった。  半ば担がれて寝室に移動したらすぐにネクタイを解かれ、ボタンをはずされた。いつも冷静を保っていた男の息が荒く不規則で、ようやくそれは自分が原因なのだと認めることができた。途端にどうしようもなく了も興奮した。 「あ、あの、福嶋さん」  残念そうに眉を下げ、はあっとため息をつかれる。 「もういいでしょ、そろそろ名前で呼んでくれませんか?」 「し、志恩…」 「うん」 「僕、今までこういうことしてなくって、その、役不足ですが…」  全てが初めての経験で、うまく出来る自信がない。マグロだと幻滅される前に正直に申告すると、言い終わる前に福嶋がおっとり笑った。 「さっきからの反応で、予想しているよ。大丈夫、了は私に身体を預けてるだけでいいから。痛かったり、無理があったら我慢せずすぐに言ってね」 「歯医者みたいですよ」  もう冗談の掛け合いは返ってこなかった。代わりに深い口づけの続きが降ってくる。同時にはだけたシャツの下から乳首を指先がもてあそぶ。声を抑えられなかった。 「ん…っ……」 「こっちは?」  少し笑いながら、反対の突起も軽くつままれる。 「や…あ、遊ばないでください…」 「遊んでないよ。興奮しているの」  確認させるように了の手を取ると、 そっと自分の中心に触れさせてくる。そこはしっかりと熱を持っていてこれから起こる事を予想するとどうしても恥ずかしいのだけれど、それ以上に昂揚で心臓が高鳴った。  小さな突起はいつの間にか舌で責められ、福嶋の長い指が爆発しそうになっていた了の中心を掴む。ぞくりと背筋が波打った。 「ぅ…あっ…!」  強い刺激にびっくりして思わず上から見てしまうと、自分の性器を触る福嶋の手をあからさまに確認してしまった。オフィスではキーボードを叩いたり書類を捲っていた細くて長い指が、なまめかしく自分の皮膚を触っていた。エロティックでどうにかなりそうだった。 「や、やだ、…福嶋さん、…」 「あ、また戻ってるよ」  責めるような口調なのに、耳元で甘くささやかれる。いつの間にか敬語がするりと落ちている福嶋の語尾が、溶けてしまうくらい柔らかくて耳の奥にいつまでも残る。 「だって…呼び慣れてるから…」 「だめでしょ。お仕置き」  了を責めている指の動きが激しくなった。裏を擦り上げられて、嬌声が漏れる。 「あっ…うぅ」 「ほら、名前で呼んで」 「し、しお、さん……うっ…」  じりじり快楽の高みに押し上げられるのに、あとちょっとというところで、動きが緩くなる。もどかしくて無意識に腰をこすりつける。 「私を恋人にする?」 「す、する、…から」 「じゃあ合コンも行かないで。約束ね?」 「い、行かな、い…」 「良い子だ」  それから解放されるように激しく数回根元まで擦られて、あっけなく果てた。小刻みに痙攣しているあられもない姿が恥ずかしく、枕に顔を押しつける。そんな了を抱きしめ、福嶋は背中を優しくさすった。 「私の了」  グッズの収集癖や鬼軍曹の称号から少しは察すれば良かった。比較対象はないけれど背筋に惜しみなく降ってくるキスに確信する。  この元上司、ベッドではサディスティックなきらいがある。 「志恩さん、ひどいです…」 「了が可愛すぎるから」 「じゃなくて、いつまで根に持つんですか…」 「言ってなかった? 私、嫉妬深いんだよ」 「でも、僕ゲイだから…合コンには最初から興味なかったんですよ」 「関係ない。了が恋愛市場で他人の目にさらされること事態が嫌なの。これからはちょっとでもそういう場に言ったら許さないからね」  とんでもない人と恋人になってしまったかもしれない…と怯えながらも、背中をひっくり返され今度は唇にされる甘いキスに結局ほだされる。  どこかから持ってきたボトルには透明な液体が入っていて、すぐに何に使うか察した。とろりとした粘着性の液体を指先に落とし、福嶋の指がゆっくりと性器より更に奥に侵入してきた。 「あっい、痛い!」  本当は痛みはなくて、不思議な違和感だった。  でも感じたことのない感覚に先ほど下した決心が揺らぎ、怖じ気づいて咄嗟にそう言っていた。 「い、痛かったらやめてくれるって言ったのに…!」 「まだだめ。だって痛いの嘘でしょう」 「う…」 「大丈夫、最後まではしないから。本当に痛くなるところまでやらせて?」  こんな場面で必殺の笑顔を使うのは卑怯だ。目尻を下げて、優しくお願いされて断れるわけない。 「志恩さんは、怖くてひどくてずるいです」 「でも?」 「…でも、好き」  たまらない、みたいにくしゃっと福嶋が笑ったから、了は降参した。もうどうにでもなれ、と目を閉じる。  とはいえ指の抜き差しは覚悟したより慎重だった。  中を擦ったり探られていると、傷つけまいとしている福嶋の思いがダイレクトに内部から伝わって、身体より先に心が開いていく。心も身体も恋人に預けてしまうと、自分の中にある襞の感覚を初めて意識できた。  女の身体じゃないのに、ちゃんと福嶋を受け入れる場所が自分にも存在することに安心した。 「ん…あっ…」 「ここ、いいの?」 「う、ん……ぁっ!」  自分から上がる嬌声がどんどん押さえられなくなってくる。もう違和感は消えて、快楽しか残っていなかった。  指はいつの間にか三本目になっていて、前の性器も弾ける一歩手前まで高ぶっていた。 「あ、…あっ……」 「このままイってもいいよ」 「だ、だめ…っ」 「なぜ?」 「志恩さんと、したい」  自然な欲求が湧き上がっていた。福嶋は意地悪だけれどさっき言ったように、多分挿入までするつもりはないのだろう。  でも自分だけ気持ちよくなっても、身体は満たされるかも知れないが心が不完全燃焼になってしまう。  一緒に気持ちよくなりたい。  福島を満たしたいと強く思った。 「…志恩さん、最後までして…」 「了、無理しなくていいよ」 「無理じゃない。僕は、大丈夫だから。お願い」  ぎゅっと了は説得するつもりで抱きついた。しばらくして軽いため息が返ってくる。そのあと英語で何かをつぶやかれた。 「志恩さん?」 「せっかく理性総動員で我慢してたのに、ってただの独り言」  今度は日本語の小声で「本当にいいの?」と更に心配そうに聞かれて、こくりと頷いた。一生確認のラリーが続きそうなので了は福嶋の腰を探って、ジーンズのボタンを外してしまう。観念したように福嶋は自分を引き出して指と引き換えに押し当てた。そのままじりじり進んでくる。 「ん…」 「痛い?」 「ううん、大丈夫」 「もうちょっと我慢して」  耳の横に置かれた福嶋の左腕が、筋立っていた。なるべく了に負担を掛けないように調整してくれているのだ。気づいたら嬉しくて、顔を寄せてその腕に口づけた。  するとめちゃくちゃにむさぼる子供っぽいキスが降りて来た。 「了、大好き」  息継ぎの間にそう言う福嶋のほうが可愛い、と了は思った。  どっちが主導権を握っているのか握られているのかもうわからなくなる。  侵入が落ち着いて、全部繋がったのだと知った。  最初は身体を静止していないと気づかないような微弱な振動から、徐々に慣らされていく。 「ん……あっ…!」  福嶋とこんな風に全てを晒し合っている事や、心が通じ合っていること。  全部が快楽となって、了の身体を刺激する。震えるほど気持ちよかった。 「志恩さん、…気持ち、いい…好き…」  伝えたい。身体で、口でどんなあなたも大好きですと全てを伝えてしまいたい。思えば思うほど、快感も深くなった。腰を振っている自分を客観視する余裕はもう少しも残っておらず、ただ奥の奥まで福嶋でいっぱいにして欲しいという気持ちだけが了を突き動かした。 「了、もういきそうです」  その言葉に僕もと答えようとした瞬間、もう絶頂を迎えていた。 「あっ……!」  すこし遅れて中が熱いもので満たされる。荒い息を二人で繰り返しながら、まだ足りないキスをいつまでも交わした。

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