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第1話
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「征さまお茶が入りました」
「ありがとう。ちょうどよかったよ」
「ちょうど・・・ですか?」
「ああ。実はオレも今・・・お前を呼びに行こうと思ってたところでね」
「何かご用でも・・・?」
「ああ。用事じゃなく相談がね――」
――時は現代。
日本人どころか、この国で暮らすモノノ怪たちにまですっかり定着した感のあるクリスマスイブを4日後に控えたこの日。
妖怪の総大将たるぬらりひょん・・・その真名を赤司征十郎という、髄一の妖力を誇る美少年と。
(が見た目はそんなでも。その実中身は、千年ではきかぬほどの悠久をその身に刻んだ・・・もはや妖怪という器すら超越した感すらある・・・いっそ生き仏に例えることさえ赦されてしかるべき域にまで達していたりするが)
そうあれは・・・。
思い起こせば、遠い遠い昔のこと・・・・・・。
とある山間の小さな村を突如として襲った厄災を鎮めるため生贄にされ。
――不幸にもわずか五つで命を喪った幼子テツヤを哀れに思い、彼の大妖怪が座敷わらしとして甦らせたのだったが。
気づけばいつのまにか・・・いやむしろ出会ったころからとっくに・・・互いに惹かれ合っていたのかもしれぬが。
睦まじくともに暮らすうち恋心を募らせ、愛を育み。
そしてとうとう一堂に会した仲間たちから盛大に祝われながら、祝言まで挙げると。
それからもただひたすらに互いだけを一途に愛しぬいていたら、いつの間に三百年の時が経っていたのである。
・・・が、けれど。
それほどたくさんの時が流れ行き、いくつももの時代が変わろうが。
その間に周囲の環境が、文化がどれほど千変万化し様相を違えようとも――。
彼らの心根は恋に落ちたあの頃からいっかな変わらずぶれず。
いやいっそのことあのころよりもっと・・・赤司は黒子を、黒子は赤司を第一に思い、大事に大事に互いを慈しむ日々である。
――とそんな。
・・・こんなにも長く。というか、ここまで四六時中べったり一緒にいて、どうして飽きてしまわないのかと。
いったいどこに秘訣が・・・? と思わず問いただしたくなるくらい――。
それくらい未だ熱々な。新婚さんみたいな二人が迎えた冬の・・・クリスマスが間近に迫ったとある昼下がりのこと。
前の日――菓子が何よりの好物である座敷わらしを助手に従え(となればもちろん。もれなく総大将様までもセットでくっついてくるのだが)、とあるホテルで開催されている期間限定のクリスマスアフタヌーンティーを堪能すべく。
赤司の使役である鵺に往復のタクシー代わりになってもらい、はるばる秋田から上京してきていた紫原が・・・。
「これ二人にお土産~」と寄越した稲庭うどん(比内地鶏のスープ付き)を仲良く調理して食したのち。
さてでは・・・とばかり文机に向かい一心に――“世界を変える5つのテクノ〇ジー ”なる書物を読み解く赤司に。
(・・・と一事が万事こんな具合で。急激な技術の進歩だろうが、時代の流れであろうが難なくモノにしてしまう彼の人は。当然のごとくスマホだって所有しているし。もはや同志同然の幹部たちとは、グループLINEを用いてコミュニケートだってする・・・がもちろん。ここぞという場面では、現在に至ってもヌエが一番頼りになるのに変わりはないが)
『あまり根を詰めすぎないで。ここらで一服いかがでしょう』なんてつもりで。
――国宝級と言っていいくらいの価値を有する古文書やら・・・そうとにかく。
博学な総大将様のお眼鏡にかなったありとあらゆる種類の書物が、所狭しと詰め込まれ、ずらり居並ぶ書斎に。
これまた紫原によりもたらされた・・・バター餅をお茶うけに。手ずから煎じた玉露を差し入れてみたところ――。
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