2 / 6
第2話
*****
「征さまお茶が入りました」
「ありがとうちょうどよかったよ、」
「・・・?」
「ああ・・・実はオレも今ちょうど・・・そろそろお前を呼びに行こうかな? なんて思ってたところでね」
なんて答えつつ、盆を右の手で受け取るや。
長きに渡り使い込まれ付喪神さえ宿っていそうな気がする・・・黒檀の机の上に置いたと思ったら。
間を置かずその幼いままの身体の両脇に向かい腕を伸ばし、ひょいと抱え上げ。
さらには組んだ胡坐の上にちょこんと乗せ。当然の権利だといわんばかり、後ろからがっちり・・・溺愛するお嫁様を抱きかかえる。
・・・と。
「何かご用でも・・・?」
「ああ。用事じゃなく相談がね――」
直前までの思わせぶりな態度や物言いも相まって、余計に好奇心をくすぐられてしまい。
「相談? です、か・・・?」
だから一刻も早く続きをと乞うかのごとく・・・期待に満ちた眼差しで見上てくる水色を、まずは『ん?』とのぞき込んでおいてから額にかかるくせ毛越しに口づけ・・・たついでに。
無防備に晒された喉笛のあたりやあご下に手指を這わせ、猫の子でもあやすように撫で回し。
あまりの心地よさから、本気でそのうちゴロゴロ喉を鳴らしだすのでは? とつい思ってしまうくらいに――すっかり身体の力を抜き、小さな背を後ろで支える人にすっかり委ねるその・・・あまりに油断しきった様子に。
仕掛けた当人まで釣られほこほこに癒されながら「・・・というのもね、テツヤ」と切り出し。
「んー、はい・・・」
「ほらお前と祝言を挙げた翌年からもうずっと・・・すっかり恒例行事になってるだろ? 例の――」
「ああ、ええ。もちろん今年もいつも通り、みなさん家にいらっしゃるんですよね?」
昨日遊びに来ていたぬりかべを筆頭に、河童に妖狐に鬼に天狗に・・・という、そうそうたる顔ぶれの妖怪たちが一堂に――。
・・・古くから甲州街道の宿場町として、そして関東北西の川越、桐生と小田原・鎌倉などを結ぶ交通の要所として栄えるとある中核市へと・・・生活の利便性なども鑑み居を移した、新・赤司邸に会し。
(総大将様の側近中の側近・・・というより。もはや種の壁をも超えた家族であり、同志でもあり、親友でもあり、そしてさらに付け加えるなら・・・「さっさと祝言を挙げてしまえ」だのと対局中せっついたのは、実は河童の緑間であったりする)
クリスマスイブの夜から一般に正月明けとされる8日朝まで――実に二週間という期間を一つ屋根の下でともに過ごしながら、飲めや歌えや遊べやの宴を……いわゆる忘年会(兼クリパ)と新年会が開催され。
そしてそれを迎える側の赤司も黒子も・・・ひいては参加者全員、それは毎年楽しみにしていることは紛れもない事実ではあるのだが。
がけれどその間中――見た目も中身も抜きん出て幼く愛らしい座敷わらしは、どうしたって大妖怪たちの寵愛を一身に浴び構われたおす宿命を背負っていて。
・・・従って。
いかな夫の赤司であろうが、愛しい嫁御を独占できぬという。
・・・そのことへの覚悟が必要な二週間でもあるために。
ならばと。それまでにせいぜい嫁御充を・・・宴が始まるまでの4日間を利用し、果たしておかねばならぬと。
でないと。万が一にも。
たとえ集うのが気心知れた連中であったにしろ。
嫉妬や焦燥などで・・・いっぱしの大妖怪としての威厳を損ねるようなことなど決してあってはならぬ。見せてはならぬとも思っていたところでもあったし――と。
(どっこい。本人は隠せているつもりでも、総大将の嫁御に対する溺愛ぶりも狭量さも。とっくの昔に周囲にはバレバレである)
以前暮らしていた山奥の禁足地にこもったままいては、このすっかり近代化された日本での暮らしに・・・何かと不便なことばかりだからと。
そう思い切って、都内近郊に居を移して以降(が当然のごとく敷地周辺には結界が張り巡らされ、かつセキュリティーも万全に整えられているため。近隣の住民たちであろうが簡単にこの・・・千坪を超える大邸宅の、門扉をくぐることすら難しいのが現状であるが)、
赤司はちょくちょくテツヤを伴い・・・買い物に出かけてみたりだとか、マジバデートに出かけてみたりだとか、試合観戦しにでかけてみたりと(その際わらしの姿は都度の都合により変化する)。
常日頃よりのその・・・わらしを喜ばせることにかけては、一切の労をいとわぬ愛妻家ぶりをまたもいかんなく発揮して――――。
ともだちにシェアしよう!