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第3話
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「ああ、うん、いいね・・・とてもよく似合ってる。テツヤ」
自宅で過ごす際は今も変わらず慣れ親しんだ和装を貫く彼ら。
ところがつい最近のこと――。
「ほんとですか? ありがとうございます。でも・・・」
「――ん?」
「そうおっしゃる征さまのほうがよっぽど」
「うん?」
たまたま目にしたとあるアニメ番組にすっかり感化され。
結果・・・・・・一度でいい、ボクも高校生になって学校とやらに通ってみたいだとか。
はたまた部活動でバスケをしてみたいだとか、部活帰りにマジバやコンビニで道草してしてみたいだとか・・・。
物語の中で鮮やかに、爽やかに、時には熱く描かれる青春真っ只中な高校生たちに。
さらにはバスケにもお熱なテツヤへのクリスマスプレゼントにと――。
「いつもの着流しとはまた違うかっこよさっていうか・・・」
時代の流れに乗って和裁だけでなく洋裁もこなすようになったばかりか。
同人誌即売会などにおいては知る人ぞ知る・・・と噂されるまでになった、コスプレ衣装の仕立て屋としての顔も持つ雪女に頼んで。
テツヤにそこはかとなく似た容姿を持つ主人公が通うセイリン高校の制服と。
「へぇ・・・そんなに?」
そして自身にもまた・・・。
3軍で燻り、夢破れかけていた主人公の秘めた才能に気づき・・・だけにとどまらず、1軍へのし上がるヒントも示してみせるという――主人公の窮地に陥った際、救世主的な役割を担った・・・一年生副部長様の進学先たる、ラクザン高校のブレザーを仕立ててもらい。
ぎりぎり冬休み前で・・・しかも。
多くの学生たちがまだ校舎に集っている間に、少しでも雰囲気を味わわせてやりたいと・・・。
懇意にしている都知事や文科省大臣に融通を頼んで、とあるSSH指定校を学校見学の体で。
――昼下がりの校内を散策させてもらうところまで・・・準備万端段取りが組まれていたのを、この日の午後になって突然。サプライズ的にお嫁様である座敷わらしに告げ。
そして。
胡坐の上にちょこんと収まったまま――。
滔々と語られるあまりにも寝耳に水な予定を前に、ひたすら・・・ぽかんと口を半開きにした呆け顔で仕掛け人たる赤司を見上げてくる、その小さな身体に慣れた調子で術をかけ。
紫原も交えアフタヌーンティーに出かけた昨日同様に、元服(成人)時の姿に変化した・・・。
・・・まさに白百合のごとき清廉無垢ぶりを身体中から醸しだす美貌の妻の、スラリ伸びやかな細身の体に。
さらに・・・禁欲的なイメージが付きまとう詰襟の制服を纏わせ。
その全身にくまなく・・・舐めるように視線を這わせては。
――『あの・・・夜ごとオレに抱かれ、啼かされ、乱され、蕩けまくっている姿はすべて夢・幻ではなかったかと己を目を疑いたくなるほど・・・どこまでも清廉無垢なこのテツヤのたたずまいときたらどうだ? ・・・まったく。実にけしからん』
自分で着せたくせどうかと思うが・・・可能なら今すぐにでもこの、禁欲の象徴たる詰襟の下に隠された――与えられる快楽にはとことん弱い・・・愛される悦びを知り尽くした彼がうちに秘める、淫らな本性を暴き立て。そのまっさらな制服ごめとことんまで犯し、汚してやりたいなどと・・・。
自身もグレーや黒と・・・モノトーンでシックに纏められたブレザータイプの制服に着替えながら、あまりにも不届きすぎる願望(煩悩)で頭がいっぱいになり、危うく欲望に流されそうになったのがつい10分ほど前。
・・・が、すんでのところで。
三百年連れ添ったお嫁様が寄越す『これいったいどこの御曹司? いや王子様ですかね・・・?』だとか。
『どっちかっていうと征様は、イケメンっていうより・・・絶世の美人? 美男? って言った方がしっくりくるっていうか・・・はぁ~・・・ほんと。ブレザーも惚れ惚れするくらいよく似合ってらっしゃる』とでも言いたげな。
目は口ほどにモノを言うという、そのことわざ通りの・・・うっとりウルウルな眼差しに気づいたとたんに。
そうだった。今日は制服デートをする予定にしていたんだったと、本来の目的を思い出してはたと我に返ったところで・・・すぐさま。
あっという間にスイッチを切り替え――とびっきりの、キラキラと目に眩しい王子様スマイルを浮かべると。
「わっ、・・・・・・んぅ?!」
まさに今思いついたみたいにひょいと。軽々姫抱きにして持ち上げた童の、桜の花びらにも似た淡桃色の唇を。
――予期せぬ事態に驚くあまりつい・・・といった感じで思わずこぼれたその透明なテノールごめ幾度か・・・『愛してるよ』と囁く代わりとばかり、軽くついばんで味わっておいてから。
「ん、ん、」
「・・・ん。さて、と・・・それじゃ身支度も整ったことだし、いよいよ放課後デートと洒落こむとしよう――・・・鵺!」
テツヤが開け放したままにしていた書斎から、廊下にひょこっと顔だけ出し・・・いずこへともなくそう声をかけ。
「ヒョー、」
「行き先は新宿の戸〇高校なんだが・・・頼めるかい?」
「ヒョー、ヒョー」
――千坪を優に超す敷地面積を誇るぬらりひょん邸において、その――ぬりかべすら易々背に乗せ、空をも翔けることのできる巨体を持て余すことなく・・・悠然として暮らす使徒を召喚。
(なぜなら総大将の計らいにより。大は小を兼ねるのことわざ通り、間取りやらなにやら・・・すべて鵺のサイズを基準にして造られているからに他ならない)
主の依頼を聞きつけたとたん、がってん承知とばかり板張りの床にぺたりと腹をつけ伏せの体制をとるその・・・毛足の長い冬毛でみっしり覆われたモノノ怪の逞しく広い背に、制服姿のわらしをまず腰掛けさせると。
すぐさま・・・愛しい嫁御を後ろから抱きかかえ守るかのごとく、背後にぴったり密着して跨りつつ――鵺を中心に目くらましの結界を張って準備万端支度を整えたところでいよいよ・・・・・・。
「さてと――では出発するとしようか」
「ヒョー!」
悠久を生きる妖怪が故、暑さ寒さにさほど左右されぬ肉体を持つ二人を背に乗せた鵺が、赤司の一声に応じ、一足飛びに廊下を駆け抜け。
ぬらりひょんが妖力を使い扉を開け放った――冬晴れの陽射しが燦燦と差し込むリビング伝いに設置されたバルコニーに飛び出すと。
まさに今年のこと。秋の訪れに合わせ、新しく張り替えられたばかりのウッドデッキを力強く蹴っては・・・澄み渡る空の端を目指すかのごとく地上150メートル(高層ビルなら42階くらい)の高さまで、上昇流に乗って一気に駆け上がり。
同じく東の方角を目指す鳶たちと並走でもするかのように、軽やかに風を切り――直線距離にして約40キロほどを一刻(30分)もかからず走り抜け。無事・・・誰にも見咎められることなく校舎の屋上まで送り届け・・・・・・。
「ありがとう。助かったよ」
「ヒョー、」
「それじゃあね、鵺。帰りまたよろしく頼むよ」
「狐さんに、くれぐれもよろしくお伝えください」
「ヒョーヒョー!」
そこから二手に別れ――赤司と黒子は今日の案内役が待つ校長室を目指し、建物の中へ。
一方の鵺は、せっかくここまで出張って来たのだからと・・・都内最果ての地に暮らす篠崎狐を訪ねるべく。ここからさらに東を目指し、少しずつ陽射しの傾き始めた晴天の中を翔け行く――。
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