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第4話
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期末テストを終え、冬休み間近・・・なだけでなく。さらにクリスマスまでがほんのついそこに控え。
生徒たちだけにとどまらず、学校全体に漂う・・・なんとなく浮足立った感じというか。
そういうなんともいえない・・・どことなく甘酸っぱいような。まさに青春真っ只中! みたいな・・・そんな空気が漂う放課後の校舎の中を、校長直々の案内により・・・。
順次ホームルームを終えた生徒たちが三々五々――やれカラオケだ、いやこっちはプレゼントを買いに街へ繰り出すだ・・・バイトだ、部活動だと――思い思いの目的地に向かい散っていく彼らからあふれ出る・・・有り余るほどの活力だったり。
またあるいは、耳をくすぐる楽し気な笑い声やテンポよく交わされる会話などから・・・。
校内のそこかしこから溢れ伝い出て、そこいら中をキラキラ輝かす・・・所謂青春の息吹みたいなものを肌で感じるにつけ。
いかにも眩しそうに。かつ興味深げにくるくる視線や表情を変えながら――。
アニメを観て感化され、ぜひ一度でいいからと焦がれ・・・自分もその場の空気に触れ、実際の彼らがどんなふうであるかぜひ見たい知りたいと望んだ高校生たちの日常を・・・。
あちこちに顔が利く総大将様のおかげもあって、念願かないつぶさに観察しただけでなく。
詰襟を着込んだままではあったがバスケ部の練習にも・・・二人して少しの間加えてもらい嬉々として参加してはみたものの・・・。
件のアニメ一期放送直後、総大将により突如庭に整備されたストバスコートにて・・・どれだけ毎日練習を重ねてもさっぱり上達しないシュート力を、部員たちから揶揄われてしまい。
大人げなくついぷうと頬を膨らませ拗ねてみせたり・・・なんて和気あいあいなやり取りをしていたら。
黒子に集中し始めた好意的な感情や視線を敏感に察知し、危機感を募らせた赤司がここぞとばかり軽々ダンクを決めてみせ。
そして。
校内を見学中、増える一方だったギャラリーやその場にいたもの全員の意識を――。
『うぉぉぉ!!』とかいうドスの利いた雄たけびや。
『きゃあーーー♡』だったり、『かっこい~~~~♡♡♡』なんていう・・・黄色い声援込めかっ攫い。
――だけでなく。
さらにはお嫁様からの「さすがは征さま」などという・・・いかにも『また惚れ直しちゃいました♡♡』みたいな視線やら。
『ね? ボクの旦那さまってば、世界一かっこいいんですよ! どうです、すごいでしょう?!』とでもいいたげに・・・。
心の底から誇らしげにどや顔してみせるその姿に、なんて微笑ましいことだろうと・・・。
むしろそんなお前の方がよっぽど・・・世界一可愛いくて、愛しくて仕方がない、たいせつなたいせつな、オレにとって生涯唯一人きりと定めた嫁御だよなんて――。
どうにも隠し切れない(そもそも隠すつもりもないのだが)、甘々でラッブラブな・・・新婚300年目だとかいう年季の入りまくったバカップルぶりを、行く先々にまき散らしながら・・・日暮れごろまで放課後デートを堪能したのち。
座敷わらしの好物とされる菓子類の中でも、黒子が群を抜いて好み。可能なら日に三度摂る食事の代わりにしたいほどだとまで言い切るバニラシェイクを馳走してやるべく。
鵺に乗って帰り着いた地元八王子の・・・自宅から最寄りのマジバにわらしをエスコートして。
「今日のバニラシェイクはいつにもまして美味しく感じられます」
・・・と。
いつものようにさも大事なもののように両手でカップを持った黒子が・・・ようやく吸い込むことのできた甘い氷菓ののど越しを、うっとり満足げに・・・はふ、とため息をこぼしながら堪能しつつ。
なんならいっそ、もう一杯飲みたいくらいだとか。果ては・・・最初からLサイズを注文しておけばよかっただとか。
――とかいう割に、今まで一度だって全部飲みきれたことがないのに。Mサイズがせいぜいといったところなのに・・・なのになぜかそう自信たっぷりに豪語してみせるそんな・・・。
めったにみられないくらいテンションの高い伴侶をさらに喜ばせてやろうと、黒子には内緒で鵺を遣いに出して――。
「――ただいま」
「ただいま帰りました・・・って、え???」
「ヨッス~! クリスマス前だけど、呼ばれたので来ちゃいました~☆」
「鵺まで迎えに寄越されたら仕方ない。一緒にバスケしてやらんこともない・・・のだよ」
古くから修験道の霊場として名を馳せる、お山のそば近くに流れる・・・案内川一帯を根城にする河童と川天狗の二人も加えた計四人・・・もとい四妖怪によるストバスと晩餐を。
――妖怪である彼らにしてみたら、ようやくエンジンがかかりだすというか・・・なんならここからいよいよ本番とでもいうべき逢魔が時あたりから夜半前までと、たっぷり時間をかけて楽しんだのち。
(縄張りが近く集まるのにも都合がいいからと、アニメとバスケを布教してみたところが、夫婦が期待する以上にどっぷり沼に嵌ってくれた・・・なんだかんだ付き合いの良い、緑間と高尾である)・・・・・・。
「そんじゃ! また4日後(クリスマスイブ)な」
「ええ。お待ちしてます」
「って、そうだ!」
「・・・?」
「オレ、クジとかビブスとか用意しちゃうし! 年末年始は集まったみんなで・・・3on3の勝ち抜け戦やろうぜ☆」
「ふふ。いいですねそれ。ぜひ、」
鵺の背に跨りながら――そう上機嫌で別れの挨拶を寄越す高尾に、赤司と連れ立って二人を玄関まで見送りに来ていたわらしが請け合う傍らで・・・。
「突然呼び出してすまなかったね、緑間」
「オレも楽しんだから構わん・・・が、」
「・・・ん? なんだい?」
「お前がそうまでいうなら仕方ない・・・。薬王院で年籠りする間に、一局手合わせするということで手を打ってやらんこともない」
「なるほどいわれてみれば・・・最近確かに顔を合わせれば取りも直さず『とりあえずバスケでも・・・』みたいな感じだったしね・・・?」
「ああ」
・・・だからちょうどいい機会だ。夜通しかけてじっくり将棋盤に向きあうのも悪くないねなどと。
百鬼夜行の主将と副首相・・・ツートップが大晦日、寝ずの番をする間の予定を立てながら。
「そうか――ならばその分余計にしるこを持参しなければならないな、」
「え? けど真ちゃん二、三日前年末年始用にってワンケースぽちってただろ? そんだけじゃ足りねーって?」
「ああ。赤司と一晩じっくり勝負するとなれば・・・それこそ最低でももうワンケースは余分に必要になってくるだろうな」
「それならご心配に及びません。皆さんの好物はイブに届くよう、征様がすでに手配済みです」
「そうかそれは助かる」
「ワンケースって、ぅう~わw ・・・またえっらい気合入ってんな真ちゃん」
「今年こそは、積りに積もった雪辱を果たしたいからな・・・!」
「それはそれは・・・ハハ、お手柔らかに頼むよ」
こんな風に会話する間ずっと――鵺の耳の後ろや顎の下などをモフりまくっていた河童が、ようやく・・・とっくに帰る準備の整っていた高尾の背後に、ぴたり密着するように乗り込んで。
「では・・・鵺、よろしく頼むのだよ」と一声かけたなら――。
「ヒョー、」
“いざ行かん”と・・・号令でもかけるがごとく。一声高く咆哮し応えてみせたのち。
欠け始めの寒月目指しぐんぐん上昇していくモノノ怪たちの後ろ姿を視線で追いかけながら、ひらひら手を振って別れの挨拶を寄越す黒子と。
「緑間君、高尾君おやすみなさい」「それじゃあまた四日後にね」
「おう☆ 二人ともおやすみー!」「ああまたイブに」
そんな伴侶のすぐ右隣に当然のように並び立つ(もちろん、ちゃっかりがっつり嫁御の細腰を抱いて)赤司で夫婦仲睦まじく・・・相手方の姿が見えなくなるまで見送ったのち。
「さてでは――」
「? ・・・ええ、はい」
「ちょっと早いが・・・そろそろオレたちも休むとしようか・・・?」
小さな水色頭を利き腕で抱え込んで抱き寄せた最愛の・・・こめかみあたりに口づけながら、抑えた低音でそう問うと。
「はい、征さま」
すぐさま言葉の奥に隠された真意に気づいた黒子が、見上げていた視線をすっと下ろし・・・はにかみながら頷いてくれたので。
だから・・・。
たとえたった一日限りではあっても、ずっと――一度でいいから経験してみたいと思っていた高校生活を、部活動も含め体験できただけでなく。
緑間たちとのストバスまで楽しんですっかりご機嫌なわらしを、今宵も無事閨に誘い込み。
またもじっくりたっぷり・・・放課後デートですっかり咲き綻び、芳醇な色香を放つ透けるような玉肌を夜半過ぎまで――否。その夜からイブ・イブの晩まで朝な夕なに・・・。
・・・なんなら。二人に何かよからぬことでも起きたのでは? と心配した鵺が、夫婦がこもる寝室に様子を伺いに来るくらい、たっぷりテツヤ充して備え。
(がこうまで万全で構えても、ふたを開けてみれば例年通り。結局のところ・・・せいぜいが4・5日程しか耐えられなかったのだが)
そして迎えたクリスマスイブの朝――。
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