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黒鳥の湖 6

 するとオレの視線に気付いたのか険しい顔がこちらを向いて…… 「   わかった。疑われたままと言うのも不愉快だ、そちらの好きなようにするといい」  そちらが折れてくれるとは思っていなかったせいか、時宝がそう答えた時には黒手も緊張が緩んだのか一瞬だけ背が丸くなったように見えた。 「ありがとございます。粗茶ではございますが用意させますのでどうぞこちらでお寛ぎください」  そう言う黒手の促しに従って玄関を上がってすぐの応接セットに腰掛ける時宝にぺこりと頭を下げて、オレは走らないように気を付けながら死角になる位置から続く廊下を歩き出す。  すると向こうから赤い着物を来たちびっこ達の集団が、盆に乗せたお茶を危なっかしくこちらに持ってくるのが見えた。 「にぃさん、おかえりなさぃ」 「なちぐろにぃさん、おかえりなさぃ」 「こいしたちね、おちゃぁもってくのよ」 「もってくのよ」 「おきゃくさま、ごあいさつするのよ」  顔を見れば個々人の判別はつくけれど、服と髪型だけだと誰が誰だか分からないこの子供達は、白手の中でもさらに幼い『小石』と呼ばれ、ここで育てられているΩの子供だ。この子達が大きくなれば、今のオレのように名前がついて、いつかお客……いや、旦那様を持つようになるんだろう。 「そうか、悪い人じゃないけど、おっかないからな?びっくりして泣き出すなよ」 「あーい」 「ふーん?」 「おっかない?」 「こわぁい」  オレの忠告をどう思ったのか、小石達はくすくすと笑って通り過ぎて行った。  さすがに子供相手に怒鳴りつけるようなことはしないだろうと思いたいし、そんな奴じゃないと思うけど…… 「那智黒っ」  ととと と後ろから早歩きで駆け寄りながら名前を呼ぶ人物に向き直る。オレより一つ下の弟で相方の『蛤貝』が、追いつこうと必死になってこちらに来るところだった。  『盤』ではある程度の年齢になったら二人一組で協力し合って生活をする。それはこの生活でお互いを支え合う為でもあり、相互監視の意味合いを持っているのだけれど、一番の役割分担はお互いの貞操が守られているかを確認する為だ。  医務室の扉を潜りながら、「大変だったね」と優しく声を掛けてくれるが、オレは素直に返せない。

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