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黒鳥の湖 12

「随分と若いようだが……」 「時宝様のお望みの、『誰の手垢もついていない』者ではこの二人が最年長となっております。お時間が必要となりますが、小石達の中からお選びになってご希望通りにお育てすることも可能ではございます」 「小石 とは、あの茶を運んできた子供達だろう?」 「左様にございます」  はっ と馬鹿にしたような笑いが漏れた。  お前ら正気か? と暗に告げるような笑い方だった。 「ここの者達は皆、幼い時からそうやって育てられますので、なんら特別なことではございません」  涼しく返す黒手にはらはらとしながら時宝を盗み見ると、言葉とは裏腹に酷く苛立ったような表情に見える。 「この兄弟は幼い頃から名持ち部屋持ち、ひいては個室持ちになるために育てられた最上級品にございます。それをご所望なのでしょう?」 「…………」  時宝が答えないのを答えと受け取ったのか、黒手は説明を続ける。 「時宝様のご希望を加味いたしまして、お子様一人で蛤貝なら七千、那智黒は九千となっております、以降同じ者に産ませるならば五千と七千になります」 「随分と足元を見た商売だな」 「水揚げ代も含まれておりますので……初物でなければもう少しお安い者もおりますが?」 「いや、関係した相手の遺伝子を残す場合があると聞いたからな、唾のついていない者がいい」  ふふ と黒手が笑う。 「時宝様がそんな眉唾を信じられるとは意外です」 「オメガを介さねばアルファの特性が受け継がれないと言うのも眉唾だろう」  やはり黒手はふふ と意味ありげに笑うが、それが嘘だとも本当だとも答えなかった。  こんな商売が成り立っている時点で答えは分かりきっている話なのだろうが…… 「もし、アルファではなくオメガが産まれた場合はどうする」 「もしも産まれたお子様がオメガでございましたら、二通りの選択がございます。時宝様が引き取り育てるか、こちらで引き取り育てるかでございます。その後、母体の回復を待ちましてまた再び子を成します、これをアルファのお子様が生まれるまで行います。オメガの子は金額には含まれませんのでご安心ください」 「随分と手間のかかる」 「バース性の産み分けに関しましては、男女の産み分けのように良い方法が見つかっているわけではございませんし、出生前の診断もできませんので、生まれてみないとこればかりは」  授かり物でございますから と黒手は涼やかに笑う。  オレも、弟も、黒手も、そうやって生まれて引き取られずにここで育てられた存在だ。  可能ならばΩでも引き取ってやってくれ……とも思うけれど、上流階級の家にΩは不要なんだろう。

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