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黒鳥の湖 13

「同じオメガに兄弟を産ませたいのだが、……そうだな、専属とするには幾らかかる?」 「専属?番になさるのですか?」 「番は煩わしいと言わなかったか」  時宝の言葉は胸を抉るようで、身じろぎに隠れてぎゅっと唇を噛み締める。 「では時宝様の御用が済むまで と言うのでしたら、お子様一人につき六千と八千でいかがでしょうか?生涯とおっしゃられるならば、それはその時に改めまして」 「そうか。この二人の金額が違うようだが理由は?」 「理由は二つ、一つは那智黒が兄だからでございます、単純にその分教育期間も長いので。もう一つは、那智黒の血筋の為でございます」  そこで怪訝な表情をして、オレと黒手を交互に見て、どう言うことだ?と素直に疑問を口にした。 「ここは上流の方がご使用になります、お互いが望めば子を介して結びつきを濃くされる方々もいらっしゃいますし、その血がここにもたらす恩恵と言うものもございます。そう言った点で那智黒は少々お高くなっております」  オレの父であるαが誰なのかは知らされていないが、その子供であるオレを簡単に手放すことが出来ないほどの身分なのは間違いなさそうなのは何となく感じていることだった。 「売る気のない値段 と言う奴か」 「ふふ 左様でございます。それでもご紹介くださった方が一言添えられていましたので、本来よりはだいぶお安くしておりますよ」  時宝の視線がオレに注がれて、気恥ずかしさに見返す事が出来なくて慌てて視線を伏せる。 「ご参考までに、身請けされるようでしたら蛤貝は二億、那智黒は三億で如何でしょう」 「本当に、足元を見た商売だな」  内心を読ませないような微笑を忌々しそうに見て、時宝の視線がまたオレに移った。今度は逸らしそびれてしまって、真正面からそのきつい視線を受けて、震えそうになるのを堪えるので必死だった。  尋ねたいことが途切れたのか僅かに空いた会話の空白に、黒手は手元の鈴を鳴らして小石を呼んだ。 「時宝様には眺めるだけでなく匂いの確認もして頂ければと、こちらをご用意いたしました」 「抑制剤はまだ切れていないが?」  先程廊下で転んだ小石が固い表情のまま小さな膳の乗せた切子の瓶を時宝の前に運び、そろそろと退室して行く。その足運びが震えているように見えたから、もしかしたら転んだ時に足を捻っているかもしれない。  これが終わったらすぐに冷やさせないと、捻挫してそのまま放っておけば足の形が悪くなってしまう。  そんなことを気にしていると、黒手が瓶の隣の小さな入れ物を指す。

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