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黒鳥の湖 40
そのわずかな優越感に、体中がとろりと蕩けたような気がした。
「 あ゛っ!」
ぐり と張り出したカリが内壁を抉って、まるで仕返しのような衝撃を与えてくる。
腹の奥が時宝の牡に触れてぐずぐずに蕩けて行く……
時宝に触れるすべての箇所がキモチイイ……
「うご ぃ、ゃ おねが で、 」
動いて欲しい、突き上げて欲しいと泣きじゃくって懇願しても、時宝は動かずに微かに唸り声を零すばかりだ。時折、快感をやり過ごそうとして体を強張らせているのだから、時宝自身も動きたくないわけではなさそうなのに……
ひ ひ と吐き出す熱い息が身の内を焼いて、叫び出しそうになった瞬間、オレ同様時宝も限界だったのが喘ぐような言葉がその唇から零れ落ちる。
「 ──せろ」
耳に届いた声は小さかったのにオレをこわばらせるには十分で……
首のガードを掴まれて、小さな悲鳴が漏れた。
少し癖のある、雨が降り出す前のような、オレの好きな匂いに意識を揺さぶられてうつら……と微睡みから目を開ける。
スーツ姿の時には細身に見えたのに、しっかりと鍛え上げられた体は思っていたよりも固く筋肉質で、しなやかな滑らかさがあった。
その腕が、思いの外しっかりとオレを抱き締めている。
暗い部屋は、目を凝らしても時宝の顔を良くは見せてくれなくて……
未だ残る熱で温かい胸をそっと押すようにしてその腕から逃げ出す。
目が覚めるか?と思ったけれど、発情期のセックスだ、余程疲れたのか微かに呼吸が乱れただけで起きる気配はしなかった。
本来なら旦那様が目覚めるまで共に床におり、目覚めた際に謝辞を述べなけれなならないのだけれど、そんなことになったらオレが蛤貝でないことがばれてしまう。
けれど……
「…………旦那様」
極々小さな声で囁いてみる。
もし、今起きて、発情期明けの頭でオレと対峙したら……
時宝は、気付いてくれるだろうか?
「 ぅ む ぎ 」
オレの呼び声が聞こえたのかどうかなんてわからないのに、夢を見ながらですら名を呼ぶなんて……
時宝の腕は、蛤貝を求めて必死だった。
時宝の声は、繰り返し蛤貝の名を呼んだ。
「 っ」
時宝に抱かれたと言う嬉しさの反面にあるどうしようもない虚しさに胸がぎゅうっと痛みを訴え、唇が震えるのが分かる。
時宝は、蛤貝のことがどうしようもなく愛おしいのだと、そう繰り返していた。
なんとか探り当てた長襦袢を羽織り、極力音を立てないようにその部屋から外にそっと身を滑らせる。
幸い二重扉のせいか部屋の中に明かりが差し込むこともなくて、時宝を起こさなくて済んだことにほっと胸を撫で下ろした。
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