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黒鳥の湖 46

「せめて番ってなければ誤魔化すこともできたのでしょうけれど」  頭を抱え込むようにしてベッドに腰掛けると、黒手はいつもぴしりと音が聞こえてきそうなほど正していた姿勢を小さく丸めて項垂れてしまう。 「はぁ……那智黒。このあと、私は貴男方のことを報告しなければなりません」 「  は ぃ」  いつも明朗に返事をしなさいと言う黒手も、途切れそうになるオレの言葉に何も言わなかった。 「貴男は、蛤貝の旦那様である時宝様へ懸想し、蛤貝を気に入っていた神田様をけしかけて襲わせて番にさせた。そうして自分は時宝様の床に入り睦言に便乗して項を噛ませた。蛤貝からの話を元にした内容ですが、訂正はありますか?」 「   っ」  離れの部屋から出た際にも言われた内容をもう一度言われて、あまりの内容の相違に首を振る。  こちらを見る二人の視線がオレを咎めているのではないかと気に掛かり、爪先を見詰めたままそれでも「違います」とはっきりと告げた。 「どうして蛤貝がそんな話をしたのか  」  黒手が蛤貝にされた話の内容を一つ一つ訂正して行き、「薄墨が  」と続けた途端二人の眉間の皺が深くなり、話し終わる頃には怒気を含んだような気まずい雰囲気にますます顔を上げることが難しくなっていた。 「  このタイミングで泊りがけの仕事なんておかしいと思ったんだっ」  低い黒手の声は聞いたことが無いようなほど苦々しくて……  津布楽先生の宥める声に、黒手が呻くのが聞こえる。 「 ────分かりました。ただ、どうして貴男は自分の身を顧みずに二人の言葉に乗ったのですか?貴男が軽率にそう言ったことをするとは……」 「…………」  誤魔化しながら話せたと思っていた。  けれど……  すべてを見透かすようなこの黒手には何をどう言い訳したとしても無駄だと感じると、口を開かないでいることに罪悪感を覚えてしまった。  口に出さなくとも、きっとバレてしまっているんだろう。  規則を破って、それでも抱かれたかったなんて……  簡単な理由だ。 「   オレが、時宝様を  」  その言葉の続きはどうしてだか口から出てはくれなくて、項垂れた先を何度も視線で撫でてやり過ごさなくてはならなかった。 「……馬鹿なことをしましたね」  項垂れた頭を更に下げたくなったけれど、悔しいことにこれ以上下げることができず、ぐっと唇を引き結ぶ。 「真相はどうあれ、貴男は蛤貝の不義を隠蔽し、水揚げ前に床入りし、蛤貝の旦那様に手を出した。あまつさえ部屋持ちでありながら契約も交わさないままに首を噛ませた、これは揺るがない事実です」 「そう です  」  蛤貝と共に、将来を見込まれてのこれまでの待遇だった。

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