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黒鳥の湖 87
「 ぁっ も、指とか、 ぃい、から 」
「どうして?いつも先にドロドロになるまでイかせないと挿れさせてくれないのに?」
「あーっ ぅ、あ、あっあ だって 」
とろりと溶けるような薄墨の視線が急にこちらに向けられ、思わずはっと息を飲んで体を揺らすと、そんなオレに向けて客が笑いを漏らした。
「恥ずかしいの?」
「んー んふ、うん」
「いつもより濡れてるのに?」
「恥ずかしいのと、感じるのは別だろ?」
客がゆるゆると腰を揺らす度にねっとりとした先走りが薄墨の肌の上に広がって……
それに釣れて部屋の中にむせ返るような熱気が立ち込めて、息苦しさとゾワゾワとするような悪寒が胃の腑からこみ上げてくる。
「こう言うの、好き?」
「んー どうかな?好きなの?いつもより元気」
耳を打つふふふ と言う笑い声に引きずられるように冷や汗が流れて、膝の上で揃えた手が小さく震え始める。
「ぼく?ぼくはねぇ、そうだな。オメガに見られるなら大歓迎」
「アルファとはダメ?」
男は緩く首を振り、少し怒ったふりをしながら薄墨を押し倒して……
耳を打つ粘っこい水音、
上がる嬌声と荒い息遣い、
揶揄うような睦言と喘ぎ声と……
ぶるぶると震えながらそれでも椅子に座り続けねばと耐え続けるオレの前で、まるで二匹の蛇のように絡まり合う姿は人と言うよりも獣のそれに近い。
痛々しいほどの健気さを持って受け入れるソコの赤みも、薄墨を貫く杭の浅黒い醜悪さも、何もかもが現実感がなくてこれは夢を見ているんじゃないだろうかと思わせる。
「 ────あーっ 」
甲高く、細く、達する声は悲鳴にも似ていて、震えるオレの体が一際大きく跳ね上がったのと同時に、ぴしゃりと薄墨の薄い腹の上に男の精液がぶちまけられた。
白くとろりとした、青臭いけれど生命の源を含んだソレは……
薄墨の荒い呼吸に促されるように雫が垂れてシーツへと沁み込んでいく。
二度、三度と繰り返される性交の度にこみ上げてくる吐き気は耐えがたい物になって行って……その場に居るのが今のオレの役目と分かってはいても、男が引き抜いたモノの先端から勢いよく白濁の液が飛び散り、オレの足先に零れ落ちた瞬間、堪え切れなくなって離れの部屋を飛び出すことになってしまった。
辛うじて離れの中で吐くことはなかったけれど、屋敷に戻る途中の廊下で我慢が出来ずに腹の痙攣に促されて胃の中身をぶちまけてしまう。
口内に広がる酸っぱい味と嫌悪しか感じさせない味に、膝をついてもう一度胃の中身を吐き出す。
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