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落ち穂拾い的な 巣作りと祝福
新しい方の瀬能先生が振り返り、検診の結果に異常はなかったと告げる。
「何かご質問は?」
そう問われて、自宅での東雲の姿を思い出す。
家中から俺の匂いのするものを搔き集めて、ベッドの上にこれでもかと盛り上げてその中に籠って……
これが噂に聞くΩの巣作りか と驚くと同時に、その中で蕩けそうな表情で丸まっている姿を見ると、胸の奥からせり上がる感情を抑えきれなくなりそうでいつも苦労している。
「巣作りが激しいんだが、何か精神不安でもあるんだろうか」
「妊娠初期に番以外のアルファのフェロモンに多く曝されると激しくなると言う傾向は聞きます」
心当たりに、むっと口を引き結んだ。
「妊娠初期に他のアルファのフェロモンは着床阻害を引き起こしますから」
尊臣のパーティーに呼んだのはαばかりで、あの空間にいただけでも東雲にはずいぶんと負担だったことだろう。あの時はまだ体内に俺の子を宿しているなんて知らなかったとは言え、万一がなくてよかったと思う。
奏朝にべったりしているように見えたのも、今思えばαを避けてβである奏朝が安全だとどこかで気づいていたからだろう。
「巣作りとは番のフェロモンで覆うことによって着床阻害の阻害を目的としているのではないかとされていますが、番の匂いに包まれて安心する精神安定の意味合いの方が強いようです。まぁ妊娠期間中のみの行動ですし、今を楽しむと考えてその姿を愛でてみてはどうでしょうか?」
俺の匂いで蕩けている姿を見て、愛でたいか愛でたくないかで言えば愛で倒したいと言うのが一番で……
だがその姿を心行くまで愛でるには問題があるのも確かだった。
「あ、妊娠前半は男型の方は前立腺が圧迫されて特に欲求不満になりやすいので、腹側をあまり刺激せず緩やかな動きでなら性交も構いませんよ。幸い東雲さんには問題はありませんし」
そう言われてほ と胸を撫で下ろす。
それでも素直にその言葉を受け入れることができないのは、尊臣の番のまどかが入院してしまったからだ。
念のための入院だと聞かされてはいるが……男型Ωの体が出産に向いていないと言うのは重々承知している。
そう思うと、俺は東雲にずいぶんと酷いことを強いていることになる。
「旦那様?」
検診の帰りには、東雲の行きたいと言うカフェに寄るのが習慣だった。
せっかく自由に外を歩けるようになったのだから……と思うが、東雲は俺がいない間は家にじっと籠っていることが多く、こうやって出歩くのも俺がいなければまずしない。
「いや。異常がなくてほっとしていた」
「はい!大丈夫だと思いますよ」
そう言うと嬉しそうに「宝石箱みたいですね!」と言いながらパフェに舌鼓を打っている。
気楽そうにしているが、妊娠出産は命にかかわる出来事だ。
「油断は禁物だ」
立場柄、男型Ωの出産に関する様々な問題は良く知っているつもりで、妊娠出産は病気ではないが、母子共に問題なく産むことができるのは奇跡なのだと、わかっている。
「オレの一族は、多産安産を約束された一族なので」
「それは 」
客寄せのための謳い文句だろう。
俺の胡乱な表情を読み取ったのか、東雲は一旦手を止めて居住まいを正した。
ぴりっと引き締まるような空気は『盤』に居た頃を思い出させて、少し複雑な心境になる。
「遥か昔になりますが、我が一族は多産安産と言う祝福を受けました。以来、我が一族では出産で命を落とす者はなく、また男オメガだとしても安産なのだそうです」
祝福 と表現をしてはいるが、母系遺伝する体質と言うだけではないのだろうか?
妊娠のしやすさも出産が楽なのも遺伝で説明しようとすればできる。
そう考える方が眉唾な良くわからない力で守られている と言うよりも、よっぽど説得力があるのは確かだ。
「…………」
渋い顔をして黙りこくってしまったのが悪かったのか、東雲は少し不満さを含んだ寂しそうな顔をして唇を尖らせる。
「証明してみせますから、いつかは信じてくださいね?」
そう自信満々に微笑む姿を見ていると、つい信じそうになってしまった。
END.
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