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落ち穂拾い的な 名前

「那智黒」  と呼びかけて思わず眉間に皺を寄せてしまった。 「いや、すまない。東雲だったな」 「好きな名前で呼び捨てていただいて結構ですよ?」 「そう言うわけにもいくまい」  そう言って黒い髪を掬って耳にかけてやると、くすぐったそうに微かにはにかんで首をすくめる。 「那智黒でいた期間が長かったので、その名前は馴染みませんし」 「だが、こちらが本名なのだろう?」 「はい」  『盤』の、外の人間からしたら奇妙な習慣として小石、石時代には個を分ける名前はないそうだ。将来を見込まれて初めて襲名して個人の名前を持つのだと言う。  そして、黒手になると名を返上するのだとか…… 「生まれた際に付けられた名前は『盤』ではまず名乗りませんから」 「せっかくの名だろうに」  外の世界しか知らないからか、『盤』のルールは受け入れ難い時がある。 「せっかくの名ですから、前途を祝す際の験担ぎに使います、そのため明るい色の名前をつけられるんですよ。オレの東雲は明らんでゆく朝空の色を指します」  薄暗い夜を抜けて感じる明るい日の光の色を思い浮かべ、なるほど と神妙に頷いた。 「ですので、『盤』での名前は無彩色を表す名前を使います」  那智黒 と口の中で呟いてみる。艶のある漆黒の色味は、俺が好ましく思う黒髪を表しているかのようで美しいと思うし、似合っていると思う。  けれど、 「そうだな、希望の色だな。似合っている」 「はい!」  嬉し気に返事を返す所を見ると、那智黒……いや、東雲本人もこの名前が気に入っているんだろう。  白と黒の世界から色づく世界に来て初めて名乗ることのできる名前を、俺は愛おしく思う。 END.  

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