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雪虫2 1
レシピ本を閉じ、目を瞑る。
その姿がまるで何かに祈っているようだった……と言うのは、後から直江が教えてくれた。
まぁ、オレとしては雪虫が発情期に入って早く番になれますようにって常に祈ってるんだけどもさ。
「まだ帰らないの?」
「 うん」
セキとみなわの一触即発とも言える雰囲気に居た堪れなくて、買い物にこじつけて出てきたはいいけれど、帰りたくなくて寄り道ばかりしている。
それを怪しんだのかやってきたのは直江で、すぐにでも連れ戻されるかと思ったが、直江もあの空気の中にいたくなかったのかなんだかんだと付き合ってくれていた。
「うん よし!」
本を戻して今度は絵本コーナーへと向かった。
「あと、絵本 見て行こうかと」
「適当に端から端で選べばいいんじゃ?」
「絵本の大人買いって初めて聞いたよ」
せっかくの申し出だけど、あの家は意外と収納がなくて、以前に瀬能が送ってくれた本も幾らかオレのアパートに移してなんとか収めたくらいだった。
本ばかり増やしても、片付けを担当している身としては困る。
物が多いと掃除が大変になるんだよ なんて、主婦的思考にもずいぶんと慣れてきた気がする。
「 雪虫はどんなのが、いいかなぁ。やっぱ絵が細かいのがいいのかなぁ」
「さぁ、もう読むことがないので」
「オレも縁がなかったからさぁ」
薄い本を手に取って目を通す。
余りに短いのは良くないか?
「対象年齢……」
文字が読めない段階で適応されるとも思えなかったけれど、目安は目安だ。
「 直江さん、雪虫の年齢って 」
銀に近い金髪と青い目、小さくて華奢な体、食は細くて、添加物は体質に合わない。
体調を崩しやすくて……
拗ねると頬が膨らんだり、
唇を突き出したり、
意外と頑固だったり、
あとは、可愛い。
「 オレ、雪虫のこと何も知らない‼︎」
「は?」
「年!何才⁉︎誕生日とか!血液型とか なんか 全然、すっ飛ばしてた……」
別に聞いたところで雪虫は雪虫で、何が変わるわけでもないと思っていたせいか、自分が雪虫について何も知らないんじゃないか なんて、思いもしなかった!
「え⁉︎まさかオレ犯罪者になったり 」
「ちょ しずる君、とりあえず出よう」
いきなり取り乱したオレはやっぱり目立ったらしく、直江が大慌てで店の外へと連れ出した。
「思い立つのはいいけど、変に目立つのは」
「ごめん 」
それを言うなら厳ついスーツ姿の直江だって変に目立つ と言うのは、黙っていた方が良さそうだ。
「あの、雪虫は幾つ?」
「正確にはちょっと、資料を見てみないと。ただヒートも経験しているから、犯罪者にはならないと」
「よ よかった 」
ほっと胸を撫で下ろすが、直江も言葉の中に気になる部分があった。
「資料を見ることは無理だから」
「聞く前にっ!どうして⁉︎」
「研究所の資料だから。一般人が見たいから見れると言う資料じゃないよ」
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