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雪虫2 3
「悪いけど、水貰えるかな?」
直江が来てそう呻いた。
顔色は赤いようでいて青いと言う奇妙な状態だ。
「薬飲むならぬるま湯にしとくけど」
「ああ、そうしてくれる? キツいね、クラクラする」
確かに濃い甘い匂いで目が回りそうだった。
でもそれは、ただ、それだけだ。
耐えて耐えれないものじゃない。
雪虫の、あの抗い難い匂いとは別物だ。
理性や本能とか、そう言うのを飛び越えて命の根源に訴えかけてくる、そんな……
「コーヒー置いときます」
大神と瀬能の分を盆に乗せてリビングに行き、テーブルの上に並べる。
「ああ、ありがとう」
「上 は、どうなってるんですか?」
タブレットの画面を覗き込むのは流石に申し訳なくて、正面に座って尋ねてみる。
「んー……」
「あと、匂いがすごく漏れてるんだけど、テープ貼ったりとか できないです?」
「貼ってもいいんだけど、何かあった時に入りにくくなるのはちょっと」
「じゃあ、隙間にスポンジテープ貼るとか」
「いいね、用意しておくよ」
会話はしているが目は画面をじっと見つめていて、こちらには向かない。
どんな記録を取るかも、どこを観察するかもわからないオレにはすることがなくて、一段と怖い顔になっている大神の様子をチラチラと覗き見るしかなかった。
「三人仲良くやってます?」
「それ聞いちゃう?」
だって他に会話がない。
「まぁみなわくんもプロだし、お金を貰ってる仕事で波風立てるようなことはしないと思うよ」
ってことは、まぁ二階は平和なのか?
そう思うと大神の機嫌の悪さは、前カレ?と今カレが鉢合わせしたことによるものか……
イライラを隠さない動作でコーヒーを一気に飲み干し、乱暴にカップを置く大神に瀬能が溜め息を吐いた。
「退屈なら君らは外に遊びに行っておいでよ」
法事に来た子供に言い聞かせるような言葉に、思わずぷっと吹き出しそうになるのを堪えた が、大神にはバレたらしい。
首根っこを掴まれてぷらんと体が宙に浮く。
「あのっオレは別に退屈してなんか……」
「集中したいから遊んでおいで」
しっしっと瀬能の手が無情に振られて……
「じゃあこの間の続きと行こうか」
「いやっあのっ 覚えてきたレシピを 夕飯の準備が 」
「直江、代わりにやっておけ」
台所の方から「わかりました」の声が返ってきたのを聞いて、がっくりと肩を落とす。
「この前のって?なんか面白いことやってるの?」
「魔法教えてもらってます」
「三十まで童貞でいればいいんじゃない?君はそのポテンシャルを秘めてる気がするよ」
「秘める前にだだもれしてるんですけど」
「せっかくなんだし活用しなきゃ」
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