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雪虫2 5

「ってことで、別に君達は付きっきりじゃなくてもいいんだよ?君達にラットを起こされても困るし」  確かに、大神が暴走した場合は止められる気がしない。  その時は雪虫を連れて一番に逃げるけどさ。  外に気晴らしに出る ってこともできるけど、 「  離れるの嫌だ」  またお子様と揶揄われるんだろうかと覚悟したが、瀬能はいい笑顔で頷いているだけだった。 「好きな人とは離れたくないよねぇ」  しみじみと言って腕時計を見下ろす。 「うん、そろそろ休憩しようか。上にも言ってくるよ」  直江に呼ばれて全員の飲み物を用意しに台所へ行くと、すぐ手の届く所にα用の緊急抑制剤が置いてあるのが見えた。 「大丈夫なんですか?」 「あー……念のためだよ。すぐ使える所にと思って」  ヤカンを火にかけて、長い溜め息を吐いてこちらに振り返る。 「俺みたいなのはベータなのにフェロモンにでも当てられ易いみたいでね」 「直江さんはだいぶ、アルファ寄りだよね」 「そう。簡易検査だとアルファって出るくらいだから、厄介だよね」  やれやれと長い溜め息を吐く。  これはもう直江の癖なんだろうなと思うけれど、大神に振り回されているのを傍で見ていると、溜め息が癖になるのもよくわかる。 「でもベータだから運命の相手はいないんだよ」 「ってことは、自分で運命を掴み取れるってことだ」  いつも変化に乏しい表情の直江がきょとんとして、それからぷっと吹き出した。 「前向きだな」 「選択肢が多いのはいいことだと思うけど?」  まぁオレは、雪虫以外に選択肢なんていらないけど。 「瀬能先生に言動が似てきたね」  今度はオレが吹き出した。 「それはちょっと  」  勘弁して欲しい。  悪い人ではないと思うけれど、胡散臭くて変な人だ。似てきたと言われて素直に喜べる気はしなかった。  同じ部屋で自慰を延々とされて参ってたのだと、休憩の片付けの最中にセキがポツリと漏らしてきた。   「あの……前のことがあるから聞くんだけど……ああ言うのって、皆するのかな?」  前のこと と言われて思い出したのは、寝起きに勃ってどうしようもない時にオナニーしたらばっちり見られてたってアレか!  思い出したくもないことを思い出させるなよ と呻きたくなるけど、セキはオレが思っているよりも真剣だ。 「そうだなぁ」  皆するかしないかで言えば、男なら自慰くらいやってると思う。オレがソレを覚えた時も、周りからの「やったか」の話がきっかけだった。

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