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雪虫2 6
「まぁ お年頃だしな。セキだってそうだろ?」
「えっ」
「溜まったら自分で じゃ、ないの?朝とかどうしてる?」
「朝? 朝 」 と呟いて、セキは真っ赤になって俯いた。
チラチラと周りを見てから見て、オレの耳元で「大神さんが 」と言い出したから、慌てて距離を取る。
「マジか。マジあのおっさんお前にだけ甘ぇな」
「う、うん、大神さんは優しいよ!だって朝はね 」
「それ、それ以上聞きたくないやつ!」
「う 」
友人ならともかく、知人?知り合い?世話してくれてる人?雇い主?のそう言ったものは聞きたくない。
ただ、匂いのこびりつき方からして、傾向としては分っちゃう身としては……複雑だ。
「それより雪虫の方は?」
まさか雪虫もみなわの発情を目の当たりにしてたりなんか……
「みなわさんがいる間は、衝立の向こうにいるように言ってあるから、ずっと大人しく絵本読んでるよ」
「そ か 」
「今のうちにちょっと行っておいでよ」
片付けがって言うオレの背を、大丈夫だからとにこにこと笑って背中を押してくる。
「 ありがと」
セキが出来るだけオレが雪虫の傍にいることができるようにと、気を使ってくれているのが嬉しくて。
小さく礼を言って台所から出た。
家の造り的に台所からはリビングを通らないと二階には行けず、和やかなのか難しいのかわからない表情の大人達の後ろを通り抜けて、雪虫のいる二階へと駆け上がる。
「 雪虫」
やっぱり鍵はかけられたままだけれど、ことんと音がしてこちらにくる気配がする が、扉の前にこない。
「あれ?雪虫?」
問いかけると、やっと少し近づく。
「どうした?なんかあったか?セキ呼んでくるか?」
「ちがう」
声だけでは雪虫の心情が掴みきれなくて、今ほどこの板が邪魔に感じたことはない。
いつもと違う雰囲気に、どっと胸が鳴る。
「オレ なんかしたか?」
「ちがうの あの、 」
とと と音がして、扉が衝撃で微かに動いた。
お茶を飲んでいないせいか、隙間からいつもよりも濃い雪虫の匂いがして、そこにいるんだとはっきりわかる。
「 っ」
鼻の奥がつんと痛む。
涙腺が緩んで泣きそうになったのを、雪虫の泣かないでいて欲しいって言葉を思い出してぐっと堪えて、扉下の隙間に指先を入れた。
隙間から、空気の出入りを感じてほっと息を吐く。
「しずるの匂いが、すごくして はずかしい」
「はず ?」
恥ずかしい?
雪虫が考えながら出した言葉に対して思ってはいけないんだろうけれど、なんとなくそれがいやらしく思えてしまうのは、オレがお年頃なだけだろうか。
「どきどきする」
「オレも、どきどきする」
まだ残っているみなわの匂いが邪魔っ気で、混ざり合う空気の中から雪虫の匂いだけを探し出す。
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