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雪虫2 11
「上に行く時間じゃないんですか?」
「ちょっとお水もろてからって思て。ほら、潮吹くと水分足りんようになるやん?」
潮吹くってなんだろう?
きょとん としたオレとは対照的に、直江はそれなら と水のペットボトルを二本手渡す。
「お兄さん、ちょっと手伝うたりせん?」
「申し訳ありませんが、仕事がありますので」
「ええー、大神さんは?」
「お時間ですよ」
そう言ってみなわを押しやる直江はいつもの取っ付きやすさはなくて、オレがそれなりに受け入れて貰ってるんだと分かって嬉しかった。
腕に絡みつくみなわを邪険に追い払えないのは、実験が中断されたら困るって言うただ一点で、冷ややかな目のセキが考えるようなことは一切断じてない。
いや、マジで。
「やけ、息抜きに行ってくるわ!」
オレもひょろひょろしている方だけど、みなわはそれに輪をかけて細いのに引っ張っていく力は半端なくて、売られて行く牛の気分で手を伸ばす。
「セキっちょ 」
「どなどな どーなー どーなー」
「歌わずに助けろよ!」
「こっちは俺に任せてね」
大神のことでみなわに対していろいろ思うところがあるのはわかっているけど、だからって友達を売ることはないだろうがっ!
もっとも、大神も許可したと言うのだからオレに文句を言う権利はないんだけど。
「毎日毎日盛らされてもうチン〇擦り切れそうやん?ちょっと労わってもろてもバチは当たらん思うんよぉ」
「は はぁ?」
「はぁ~肩凝ったなぁ」
わざとらしく肩を回し、何かオレに言って欲しいように上目遣いにこちらを見る。
何を言えば満足するのかさっぱりわからなくて、困り果てて肩をすくめて見せたところで、みなわは意地悪げににやにやとしているだけだ。
あー……と唸るもいい案なんて出ず、とりあえずぱっと思い浮かんだ言葉を口に出してみた。
「肩タタキ券でも作ればいっすか?」
ぷーっと噴き出されて、ころころと笑って涙を拭う姿はやっぱりエロいイメージなんて一切ない、天真爛漫なもので……
いつもそうなら、つっけんどんな態度も少しは抑えることができるんだけどなって思う。
入り口の柱にしがみついて「NO!」って言うオレに、みなわは呆れかえった顔をして腰に手を当てた。
「来んでもええけどさぁ、実験に参加するんイヤって言ってもいいんやで?」
「う 」
雪虫の発情の周期は不規則で、次はいつその機会が来るかわからない。
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